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アメリカン・ニューシネマ『卒業』、マイク・ニコルズの演出テクニックを垣間見る

(c) Getty Images

アメリカン・ニューシネマ『卒業』、マイク・ニコルズの演出テクニックを垣間見る

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主人公の心情を代弁するテクニカルな演出



 一方で、ニコルズの視覚的な演出にも着目したい。東部の大学を優秀な成績で卒業し、西海岸にある実家に戻って来たベンだが、両親がセットアップした賑やかな卒業パーティでは、彼が主人公なのになぜか1人よそ者のようだ。出世街道が約束された輝く未来にもまるで興味が持てない。そんなベンの閉塞感、疎外感を如実に現すのがプールのシーンだ。プールでブイの上に横たわるベンが、サングラス越しにプールサイドの人々を見上げる場面や、水上(現実)の喧噪を逃れて潜水服を身に着けたベンが、プールの底でしばらく佇むシーンがそれにあたる。


 また、ベンがカメラに向かって疾走する姿を望遠レンズでとらえることで、さながら動きが止まっているように見えるのは、行き場のない彼の心情を現したもの。撮影監督のロバート・サーティースが修練された技術をここで披露している。



『卒業』(c) Getty Images


 そして、冒頭のタイトルクレジットを筆頭に、劇中で時折ベンが右から左に移動するのにも演出意図があると言われている。アメリカ人の常識では、人は左から右に動くことが普通とされていて、その逆を行くベンの行動は不吉で反社会的となる。かなり穿った見方ではあるが、確かにベンは、世間の常識を覆し両親の大切な友人であるミセス・ロビンソンと密会を重ねた上、彼女の娘エレーンと恋に落ち、すべてをぶち壊して自我を押し通そうとするのだ。


 果たして、ベンはあやふやだった未来をその手に掴み取ることができるだろうか。答えは、ラストショットに暗示されている。当時まだ新人俳優だったホフマンとロスから引き出した表情は、(映画2作目の新人監督とは思えない)ニコルズの超絶テクニックの賜物だ。そしてそこに、トドメのメッセージが託されていることを、是非確認して欲しい。



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