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『クレイマー、クレイマー』ダスティン・ホフマン、メリル・ストリープ、ジャスティン・ヘンリーは、いかにして歴史に残る名演を生み出したのか?

(c)1979 COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

『クレイマー、クレイマー』ダスティン・ホフマン、メリル・ストリープ、ジャスティン・ヘンリーは、いかにして歴史に残る名演を生み出したのか?

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当時、深い悲しみの中にあったメリル・ストリープ



 もう一つ、忘れてはいけないのがメリル・ストリープの存在だ。彼女もまた抜きん出た演技派俳優として知られながら、ダスティン・ホフマンとはまた違った方法論でナチュラルに役をつかまえ、そのキャラクターの体内へと入り込む俳優である。


 注目したいのはこの映画の製作時期だ。彼女は1978年に、恋人のジョン・カザール(『ゴッドファーザー』(72)、『狼たちの午後』(75)、『ディア・ハンター』(78)など)を亡くしている。当時、大きな喪失感を抱えながら、それでもなお自分を振るい立たせるように、数々の作品に打ち込んでいた彼女にとって、本作は俳優として、女性として、持ちうる限りの力を注がなければ到達できない境地だったに違いない。


 特に法廷シーンで彼女が心からの言葉を吐露する場面は、観客の胸に深く焼きついて離れないものとなった。その表情や視線、そして頬を伝う涙には、演技の域にとどまらない彼女自身の生き様が表出していたように見える。


『クレイマー、クレイマー』予告


 他にも感情をぶつけ合うレストランでの対決シーンなど、ダスティン・ホフマンがあえてアドリブを仕掛けて、ストリープの自然なリアクションを引き出そうとした場面も多い。二人のやりとりは何度見ても本当にスリリング。演技とはこれほど奥深いものなのかとため息が出るほどだ。


 このように本作は、「演じること」と真摯に向き合った俳優たちの奮闘が刻まれた作品である。いわばフィクションの領域を超え、彼らの実人生さえも集約しながら、一本の太い幹をなしていったかのような印象だ。それでいて決して重くなりすぎず、数々の笑いと、温もりと、宝石のように輝かしい瞬間をちりばめながら、巧妙に物語は歩を進めていくのである。その点、俳優やスタッフたちの気持ちをうまく汲み取って、絶妙な作品へ仕上げたロバート・ベントン監督の采配も実に素晴らしい。



『クレイマー、クレイマー』(c)1979 COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC. ALL RIGHTS RESERVED.


 この映画の誕生から40年が過ぎたが、時代や社会状況がどんどんめぐりゆく中でも、『クレイマー、クレイマー』が示す愛情のあり方は、今なお古びることなく我々の心に深い感動を与え続けている。その存在感はおそらくこの先も変わることはないだろう。こういった作品は本当に稀だと思うのだ。



文: 牛津厚信 USHIZU ATSUNOBU

1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンII』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。



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『クレイマー、クレイマー』

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ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

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