亡き息子の姿をしたヒューマノイドを迎え入れた夫婦。再び動き出した家族の時間に、彼らはどう向き合っていくのかーー。是枝裕和監督の最新作『箱の中の羊』では、これまでの是枝作品に見られた密度の高いリアリティは抑制され、テーマから想像される感情の昂りは意外な方向へと向かうことになる。綾瀬はるかと大悟(千鳥)という話題のキャスティングは、噂を超えて、物語の本質にしっかりと確実に近づいていた。
是枝監督はいかにして『箱の中の羊』を作り上げたのか。話を伺った。
『箱の中の羊』あらすじ
息子を亡くして2年、建築家の音々(おとね:綾瀬はるか)と工務店の二代目社長を務める健介(大悟・千鳥)の甲本夫婦は、息子・翔(かける:桒木里夢)の姿をしたヒューマノイドを迎え入れることになる。彼が到着した日、「おかえり」と駆け寄り喜びを隠さない音々と、戸惑いを隠せない硬い表情の健介。「パパだよね」と問いかけられた健介は、「おじさんでええよ」と答えるのだった。少しずつ動き始める家族の時間。静かに広がっていく波紋。ほどなく予期せぬ事態が起こり、夫婦がそれぞれに抱く息子の死への想いが露わになっていくのだった。夫婦とは?家族とは?彼らは大きな決断に迫られる。そんな中、ヒューマノイド翔は密かにヒューマノイドの仲間たちとつながり始める──。
Index
哲学的な思索に向かって
Q:「遠くない未来」という設定もあり、リアリティからはあえて距離を取っている印象がありました。
是枝:あまり「近未来」を強調するつもりはなかったのですが、肉体を伴ったヒューマノイドとして戻ってくるという設定は、現代の話にするとかなり浮いてしまう。色々と取材を進める中で、そこが一番のハードルになることも分かってきた。それで少し未来の話にしました。
Q:説明や感情がかなり抑制されていて、普段の監督作もより客観性が増しているようでした。
是枝:翔の形をしたヒューマノイドの中で何が起きているのか、音々と健介には分からない。だから観ている人も分からない。その距離を踏み越えて、作り手が先に分かった気にならない方がいいなと。それは夫婦間でも同じことで、結構大事な部分でした。箱の中にあるものをみんな勝手に想像はするけれど、実際に箱を開けるわけではない。そういう距離感でいこうと思っていました。

『箱の中の羊』©2026フジテレビジョン・ギャガ・東宝・AOI Pro.
Q:リアリティとは距離を取った寓話性や、感情の起伏を抑制した客観性からは、「人はどこから来てどこに行くのか」といった哲学的なテーマを感じさせました。
是枝:最初からそう思っていたわけではないのですが、この物語と関わり始めてからの思考が、自然と哲学的な方向へ進みました。物語のラストに向かっていくにつれて、もはやリアリティを超えて寓話でいいかなと思うようになっていった。見終わった時に、物語よりも哲学的な思索に向かってもらえるといいかなと。