これは夫婦の物語
Q:先述された「箱の中の話」で言うと、箱の中がわからないことによる「戸惑い」を強く感じました。それは音々と健介はもちろん、観ている我々も同じ感情だったと思います。
是枝:死んだ子供が形を変えて戻ってきて、それを受け入れる段階から、そもそも夫婦にズレがある。受け入れる二人の目的が最初から違うし、受け入れ方も違う。当然そこから生じてくる感情も違ってくる。その二人の間のズレをどう描き分けるのか、そこがとても大事だと思っていました。それぞれを他者として描く感覚なんです。音々にとっては健介も他者だし、翔も他者。その距離感をあまり埋めないことを考えていました。

『箱の中の羊』©2026フジテレビジョン・ギャガ・東宝・AOI Pro.
Q:親子関係よりも夫婦関係の方がより印象に残りました。
是枝:編集に至った段階で「これはやっぱり夫婦の話だな」と自分でも思ったので、そっちを太くしていきました。
Q:「親は子供に捨てられるんだ」というセリフも刺さりました。
是枝:最終的には子離れ・親離れの話にも重なって見えて欲しかった。グリーフワークの話ではありますが、その先に見えてくるのは、成長した子供が親から離れていくという捉え方。そう見ていくと、実家に帰った時のシーンで母親との見え方も変わってくる。物語の流れもそこを意図した部分があります。「死」というものが「終わりで断絶」ではないという捉え方を二人ができないと、彼らの人生は先へは進まない。その入り口に立つまでの話という風に捉えていました。