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『怪物』世界を反転させる、脱・是枝裕和映画 ※注!ネタバレ含みます。

©2023「怪物」製作委員会

『怪物』世界を反転させる、脱・是枝裕和映画 ※注!ネタバレ含みます。

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※本記事は物語の核心に触れているため、映画をご覧になってから読むことをお勧めします。


『怪物』あらすじ

大きな湖のある郊外の町。息子を愛するシングルマザー、生徒思いの学校教師、そして無邪気な子供たち。それは、よくある子供同士のケンカに見えた。しかし、彼らの食い違う主張は次第に社会やメディアを巻き込み、大事になっていく。そしてある嵐の朝、子供たちは忽然と姿を消した―。


Index


「スライス・オブ・ライフ的な映画」からの脱却



怪物だーーれだ?



 耳をつんざくような、けたたましいサイレン。漆黒の空を照らすように燃え盛る業火。私たちは冒頭から、どこかの街のどこかのビルが、炎に包まれるさまを目撃する。この火災は事故なのか、それとも放火なのか。その答えは開示されず、宙ぶらりんのまま、是枝裕和監督の最新作『怪物』(23)は幕を開ける。何と美しく、何と不穏なオープニングであることか。


 『そして父になる』(13)で、カンヌ国際映画祭審査員賞を受賞。『万引き家族』(18)では、カンヌ最高賞のパルム・ドールを受賞。活躍の場は日本を飛び越え、『真実』(19)ではカトリーヌ・ドヌーヴやジュリエット・ビノシュ、『ベイビー・ブローカー』(22)ではソン・ガンホやぺ・ドゥナを主演に迎えている。是枝裕和が日本を代表する映画監督であり、世界から注目される巨匠であることは、今さら説明の必要もないだろう。


 そして彼は、第1作の『幻の光』(95)を除いて、自作のシナリオを全て手がけてきたことでも知られている。自らの手で物語を創造し、自らの手で演出し、自らの手で編集することで、唯一無二の是枝ワールドを構築してきたのだ。



『怪物』©2023「怪物」製作委員会


 『怪物』は、TVドラマ「東京ラブストーリー」(91)、「カルテット」(17)、「大豆田とわ子と三人の元夫」(21)、映画『花束みたいな恋をした』(21)で知られる坂元裕二のオリジナル脚本。是枝ワールドに他者が介入することは、一見「世界を崩壊しかねない行為」にも思える。しかしながら、プロデューサーの川村元気から企画を持ちかけられた是枝監督は、意外にも「坂元裕二」という名前を聞いた時点で、引き受けることを即決したという。


「基本的には自分の映画は自分で脚本を書いて来ましたが、誰か脚本家と組むなら誰が?という質問には必ず「坂元裕二!」と即答してきました。それは、そんなことは自分のキャリアには起こらないだろうとどこかで諦めていたからです、きっと。夢が叶ってしまいました」(*1)


 一方の坂元裕二も、是枝裕和に対する憧憬を隠さない。


「是枝さんは学年もクラスも違っていて話したこともないけど、時々廊下で目が合ったり、持ってるものを見て真似して手に入れたくなる、憧れの存在のような人でした」(*2)


 是枝裕和は自らの作品を、「スライス・オブ・ライフ的な映画」(*3)と語っている。丁寧な手つきで日常の断片を切り取り、紡ぎあげた物語の解釈を観客に委ねることで、芳醇な映画体験を生み出してきた。だが他ならぬ彼自身、定型としての“是枝裕和なるもの”から、脱却したいと望んでいたのかもしれない。坂元裕二という稀代の才能と手を組むことで、彼は新しいナラティブ(語り口)を勝ち得た。


 そう、本作は是枝裕和による「脱・是枝裕和映画」なのである。




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