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『ランブルフィッシュ』80年代青春映画ブームの中の実験作は成功か失敗か?白黒フィルムに込められた監督の想いとは

(C)1993 Hot Weather Films. All Rights Reserved.

『ランブルフィッシュ』80年代青春映画ブームの中の実験作は成功か失敗か?白黒フィルムに込められた監督の想いとは

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異邦人/アウトサイダー



 喧嘩に明け暮れる不良少年のラスティ・ジェームス。彼にはモーターサイクルボーイと呼ばれる兄がいる。伝説の不良と崇められた兄に憧れ、いつか追いつきたいと思っている。しかし兄は突然姿を消し、ある日また、突然帰ってきた。その姿は以前とは違い、何か大事なものが抜け落ち、物静かで穏やかである。多くを語らずとらえどころのない兄は、いつもするりとかわしていってしまう。


 兄はペットショップの水槽に生きるRumble Fish(闘魚。ベタという種)を眺めながら弟に言う。「魚は川で泳ぐものだ。広いところであれば殺し合わずにすむ。」闘魚は気性の激しい種で、一説によればどちらかが死ぬまで戦い続けるという。そしてモーターサイクルボーイを以前から疎ましく感じていた一人の警官が行動に出る・・・


 本作のユニークな点は、観客の視点を、兄であるモーターサイクルボーイに設定したことだ。コッポラ監督は、撮影前、モーターサイクルボーイ役のミッキー・ロークにカミュの「異邦人」を渡したという。カミュ・異邦人といえばテーマは「不条理」だと普通は考える。理解できないものはできないままでしかない。平行線のまま。



『ランブルフィッシュ』(C)1993 Hot Weather Films. All Rights Reserved. ※映画本編はモノクロですが、撮影時スチール写真のためカラーとなっています。


 しかし異邦人の原題はアメリカだと「The Stranger」、イギリスだと「The Outsider」(英米で分かれてしまっているのは当時の出版事情によるらしい)。コリン・ウィルソン氏の有名な著書「アウトサイダー」によると、アウトサイダーとは、自分の心の真実にこだわるあまり、社会に適応できない人間のことで、アウトサイダーが望んでいるのは自分の心の真実が世界において表現されていく機会であるという。はなから社会を裏切ろうとしているわけでもなく、誰もが最初は地続きであったはずなのだ。


 若い頃は社会のルールがおかしいと思ったらおかしいと言える環境が与えられている。大きくなるにつれそのバランスは困難になっていく。兄であるモーターサイクルボーイは心の赴くままに生き、社会の不適格者となってしまっているが、いつまでも昔のままではなく成長してしまっている自分自身のことも認識している。そんな自分に憧れている弟に対し、どこまでも優しい眼差しで寄り添い、引いた視点で成長を促す。モーターサイクルボーイがどう世界を見ているのか。極端にいえば兄が神の視点でいつも弟を見守っている、そのことを追体験していく映画である。



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