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『ランブルフィッシュ』80年代青春映画ブームの中の実験作は成功か失敗か?白黒フィルムに込められた監督の想いとは

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『ランブルフィッシュ』80年代青春映画ブームの中の実験作は成功か失敗か?白黒フィルムに込められた監督の想いとは

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モーターサイクルボーイに合わせた映像設計



 色が判別できない兄の視点で進むため、全編がモノクロである。そのモノクロも、明暗がはっきりしていてコントラストが非常に強い。監督のインタビューによれば、キャラクターの設定に準じたことと、詩的な美しさを作りたくて選んだ結果の方法であり、見た人の多くはドイツの表現主義やオーソンウェルズなど、昔の優れた白黒映画を思い浮かべるが、特にどのスタイルと決めた映画はないとのこと。しかし思い通りの影をつくるために照明だけではなく塗料で黒く塗って作ったシーンもあるといい、こだわりは相当あったはずだ。


 また、複数人が一画面で収まっているシーンではパンフォーカス(画面の全体にピントが合っていること。人間の見た目とは異なる見え方になる。多くの照明を必要とする)を多用している。「市民ケーン」のように白黒とパンフォーカスが組み合わさったことで極端な陰影のグラデーションとクリアな視界による張り詰めた緊張感が生まれたように、誰の表情も見逃せない、<視る>ことの集中力を必要とされる映像設計になっている。



『ランブルフィッシュ』(c)Photofest / Getty Images


 路上に焚かれたスモークや繰り返し現れる時計など、白黒だから浮かずに溶け込むモチーフも随所にあり、ほぼ全編ロケーション撮影でありながら、スタジオ撮影のようにコントロールされた人工的感が漂う。


 水槽で泳ぐ闘魚だけは鮮やかなカラーで処理され、パートカラーの美しさが際立つ。ベタという種は赤や青、非常に色鮮やかである。凶暴性を強化することを目的として人工的に交配させ続けてきた結果の副産物なのだという。


 また、『ワン・フロム・ザ・ハート』で追求しきれなかった制作スタイルを本作でも試しており、撮影前に全編をビデオでラフに作り、後で塗り替えていくという手法をとっている。なんとテスト段階で本俳優も使って、道路を歩くシーンをリアプロジェクションで撮る、という、偏執狂的な凝り方をしており、コッポラさもありなん、という印象である。そのおかげか、確かに本作はプロダクションデザインに破綻のない、一貫したスタイルが貫かれている。『ワン・フロム・ザ・ハート』の失敗をなんとか挽回できたと言うべきだろうか。


『ワン・フロム・ザ・ハート』予告


 ちなみに、タルサに生きるティーンのリアルな姿を撮り、ラリー・クラークの評価を決定付けた写真集「タルサ」(71)も当然のごとく本作に影響を与えているようだが、ラリー・クラークの個性は被写体との親密性からくる生っぽさが際立っているところであり、撮影手法というよりも白黒のグラデーション表現のリファレンスだろうと推測する。



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