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『ランブルフィッシュ』80年代青春映画ブームの中の実験作は成功か失敗か?白黒フィルムに込められた監督の想いとは

(C)1993 Hot Weather Films. All Rights Reserved.

『ランブルフィッシュ』80年代青春映画ブームの中の実験作は成功か失敗か?白黒フィルムに込められた監督の想いとは

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ロックミュージシャンが作るサウンドトラック



 本作が他の青春映画、いや、あらゆる映画と差別化できているのは、サウンドトラックにあるといっても言い過ぎではない。これまでサウンドトラックといえばメロディ重視のオーケストラだった。しかし本作はもともと、通常のメロドラマのアンチというコンセプトで始まったプロジェクトである。コッポラは映画音楽家にはオファーするつもりはなかった。


 メロディではなくリズム重視。パーカッシブ。そこで当時人気絶頂期、スティングのいるザ・ポリスのドラマー、スチュワート・コープランドに依頼するという驚きの行動に出る。本作の公開と同じ年にポリスのアルバム「シンクロニシティ」がリリースされるが、個性の強いメンバーの才能の衝突も極まり、アルバムは最高の評価とセールスをあげるが、事実上の解散を迎える。



『ランブルフィッシュ』(C)1993 Hot Weather Films. All Rights Reserved.※映画本編はモノクロですが、撮影時スチール写真のためカラーとなっています。


 その渦中にあるからこそ、コープランドは才気を爆発させ、カテゴライズの難しい、独特な、ロックでもジャズでもレゲエでもない、しかし本作のコンセプトにがっちりハマったサウンドトラックを完成させる。


 劇中では高速で流れる雲や高速で動く時計など、タイムラプス(微速度撮影)のイメージが繰り返し挿入されている。一方的に過ぎ去る時間に対しての憧憬を表現しているのだが、コープランドの手数の多いパーカッションの刻み方が、時間表現と非常にマッチングしている。タイムラプスのイメージは、のちにガス・ヴァン・サントがマット・ディロンと組んだ『ドラッグストア・カウボーイ』(89)以降、多くの作品で使い続けるモチーフで、本作に捧げられたオマージュである。


『ドラッグストア・カウボーイ』予告


 コープランド起用の成功により、以降、ソロアーティストによるサウンドトラックという道が映画界に追加される。ピーター・ガブリエル『バーディ』(84)『最後の誘惑』(88)、ライ・クーダー『パリ・テキサス』(84)、ジョン・フルシアンテ『ブラウンバニー』(03)、ジョニー・グリーンウッド『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(07)、トム・ヨーク『サスペリア』(18)など、従来の型にはまらない音楽を求める監督にとって大事なパートナーになっている。



今となってはあまりに豪華な共演陣



 マット・ディロンとミッキー・ロークの父親役にデニス・ホッパーというなんとも濃いメンツの家族である。デニス・ホッパーは『地獄の黙示録』のロケ地であるフィリピンのジャングルに麻薬漬けで現れてコッポラを散々困らせた怪優だ。今度は妻に逃げられた酔っ払い役だが、というか、本当に酔っ払ってるとしか思えないし、テイクも相当なことになったようだ。よほどコッポラとはウマが合うのかもしれない。若きニコラス・ケイジやローレンス・フィッシュバーン、トム・ウェイツたちが出ているのも見逃せない。



『ランブルフィッシュ』(C)1993 Hot Weather Films. All Rights Reserved. ※映画本編はモノクロですが、撮影時スチール写真のためカラーとなっています。


 80年代はハリウッドメジャースタジオによる青春映画が数多く制作された一方で、インディーズ監督たちの強い個性が次々と花開いた時代でもある。ジム・ジャームッシュやデビッド・リンチに代表される、ニッチでありながら商業性も兼ね備えた、新しいアメリカ人作家たちの登場である。自然に個性を発揮し、際立ったスタイルが生まれてくる彼らの映画に対し、すでに巨匠と化していたコッポラも、旺盛な創作意欲と新しい試みで対抗し続けていた。しかし、メジャースタジオとウマが合い、成功した作品は残念ながら少ない。コッポラが得意とする映画的なカタルシスにあふれた映画が完成されているかといえば、物足りなさを感じてしまう。


 今後、新作が観れるかどうかわからないが、今一度、監督の熱を帯びた作品に劇場であいまみえたいと思う。


参考

https://www.theguardian.com/film/2012/aug/13/how-we-made-rumble-fish

https://www.youtube.com/watch?v=ewDWoxBCcBE&t=304s




文:江口航治

映像プロデューサー。広告を主軸に、メディアにこだわらず幅広く活動中。カンヌはじめ国内外広告賞多数受賞し、深田晃司監督『海を駆ける』(18)やSXSWへのVR出展など、様々な制作経験を経たプロデューサーならではの視点で寄稿。「note」でも投稿中。



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『ランブルフィッシュ』     

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Blu-ray:¥4,800+税

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