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『蜘蛛女』攻撃型ファム・ファタールが、男性目線のファンタジーをひっくり返す伝説の怪作

(C)2016 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved. Distributed by Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.

『蜘蛛女』攻撃型ファム・ファタールが、男性目線のファンタジーをひっくり返す伝説の怪作

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映画の生命線となるマーク・アイシャムの官能的なジャズスコア



 こういった飛び道具的なヒロインを投入しながら、しかし際物にまで振り切れず、フィルムノワールとしてのトーン&マナーを保ったのは、演じるレナ・オリンの力が大きい。当時38歳。


 ミラン・クンデラ原作の『存在の耐えられない軽さ』(1988年/監督:フィリップ・カウフマン)でダニエル・デイ=ルイスやジュリエット・ビノシュと共演し、ホロコースト生還者の愛人役に扮した『敵、ある愛の物語』(1989年/監督:ポール・マザースキー)ではアカデミー助演女優賞にノミネート。現在も映画やテレビを中心にマイペースで活動を続けている。夫は同じスウェーデン出身である『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』(85)や『ギルバート・グレイプ』(93)の監督、ラッセ・ハルストレムだ。


 ジャック役のゲイリー・オールドマンは当時35歳。『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』(2017年/監督:ジョー・ライト)でアカデミー主演男優賞を受賞し、いまやイギリスを代表する名優だが、筆者は初期のストリートの匂いを引きずった彼の佇まいが大好きだった。



『蜘蛛女』(C)2016 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved. Distributed by Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. 


 『蜘蛛女』と近い時期には『トゥルー・ロマンス』(1993年/監督:トニー・スコット)や『レオン』(1994年/監督:リュック・ベッソン)等がある。出演せず裏方に徹した監督作『ニル・バイ・マウス』(1997年)も力作。『蜘蛛女』ではレナ・オリンとのSM合戦が映画の大きな見所となり、ワイヤーでのムゴ過ぎる首責めシーンなど、いま観ると後年の『オーディション』(1999年/監督:三池崇史)の石橋凌&椎名英姫(現・しいなえいひ)を連想したりも。


 そして愛人シェリー役で無邪気な下層のビッチキャラを好演したジュリエット・ルイスは、当時20歳。この『蜘蛛女』と同年にはハルストレム監督の『ギルバート・グレイプ』に爽やかな女子役で出演しており(こちらもハマっている)、観比べてみるのも面白い。



『蜘蛛女』(C)2016 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved. Distributed by Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. 


 さらにもうひとつ、本作で特筆すべきなのは音楽だろう。全編のムードを決定づけるのはマーク・アイシャムのジャズスコアだ。アイシャムは映画音楽を手掛ける前、もともとトランペッターとしてプロのキャリアをスタートさせただけあり、『蜘蛛女』の仕事はまさに本領発揮。amazonのサントラ販売ページには『死刑台のエレベーター』(1958年/監督:ルイ・マル)を引き合いに出す紹介コメントが載っているが(『CDジャーナル』データベースより)、あの作品でトランペットを即興で吹きまくったマイルス・デイヴィスのことは確実に意識しているだろう。モダンジャズの官能性こそが『蜘蛛女』の強度を裏支えする生命線と言える。


 脚本は他に著名な劇作家デヴィッド・マメットと共同で手掛けた『ウワサの真相/ワグ・ザ・ドッグ』(1997年/監督:バリー・レヴィンソン)などの代表作を持つヒラリー・ヘンキン。フィルムノワール並びにファム・ファタールは男性目線のファンタジーという側面も色濃いが、それを批評的にひっくり返す『蜘蛛女』の物語が女性目線で書かれたことも非常に興味深い。小ネタのチョイスもセンスが良く、劇中でそっと言及されるポール・ニューマン主演の西部劇『ハッド』(1963年/監督:マーティン・リット)なども観ておけば、さらに味わい深く楽しめるはずだ。



文: 森直人(もり・なおと)

映画評論家、ライター。1971年和歌山生まれ。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)ほか。「週刊文春」「朝日新聞」「TV Bros.」「メンズノンノ」「キネマ旬報」「映画秘宝」「シネマトゥデイ」などで定期的に執筆中。



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『蜘蛛女』

DVD発売中 ¥1,419+税 

20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン

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