『トラフィック』あらすじ
「エリン・ブロコビッチ」のスティーヴン・ソダーバーグ監督が、メキシコとアメリカを結ぶ麻薬ルートを巡る様々な人々をサスペンスフルに描いた群像劇。アメリカとメキシコを結ぶ巨大な麻薬コネクション“トラフィック”を巡って複雑に絡み合いながら繰り広げられる3つの物語。メキシコ、ティファナ。麻薬密輸現場を監視する警官ハビエールは、サラサール将軍の密命を受け麻薬カルテル一味の壊滅に協力するが……。アメリカ、オハイオ。新しい麻薬取締最高責任者に任命されたロバートは麻薬犯罪の摘発に邁進するのだったが……。アメリカ、サンディエゴ。仲間に裏切られ窮地に立たされた麻薬王を救うために妻がとった行動は……。
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監督・撮影・編集を一人で兼ねるソダーバーグ流映画術
スティーブン・ソダーバーグにアカデミー監督賞をもたらした2000年の映画『トラフィック』。これはピーター・アンドリュースという別名義で、監督であるソダーバーグ本人が撮影監督を手掛けるという、非常に珍しいシステムを創り上げる出発点となった作品だった。
なぜわざわざピーター・アンドリュースという変名を使っているのか。理由は単純で、ハリウッドでは映画スタッフの職種ごとに組合があり、脚本家組合からの横槍が入ったから。
ハリウッドで脚本家の地位は高い。『トラフィック』でソダーバーグが監督兼撮影監督としてクレジットされると、脚本家(スティーブン・ギャガンが担当)の序列が撮影監督より後ろになってしまう。それではけしからんとクレームが出たのだ。そこでソダーバーグは、父親のファーストネームとミドルネームから撮影監督ピーター・アンドリュースという名義を作り出した。
ちなみにソダーバーグは自身の作品で編集も手がけることが多く、その際にはメアリー・アン・バーナードという女性名を名乗っている。こちらは母親の結婚前の名前に由来していて、一本の映画に自分自身と両親の名前をクレジットしているわけだ。
『トラフィック』(c)Photofest / Getty Images
『トラフィック』で撮影監督ピーター・アンドリュースという別名を使ったソダーバーグは、すべての監督作で撮影監督を兼ねるようになる(これに触発されたキャリー・ジョージ・フクナガ監督が「自分もやってみたい!」と『ビースト・オブ・ノー・ネーション』(2015)で監督と撮影監督の兼任に挑戦している)。テレビシリーズの「ザ・ニック」でも全話の監督・撮影・編集を兼ねており、もはやちょっとした超人である。
ソダーバーグ=ピーター・アンドリュースは作品ごとに腕を上げ、やがて「ムダなことは描かずに済ませたい」という監督としての方針に合致した腕利きの撮影監督になっていくのだが、どうしても監督としての肩書が目立つためか、ピーター・アンドリュースを撮影監督として評価する声は多くない。ハリウッドでも過小評価がはなはだしいと異論を唱えたいところだ。