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アル・パチーノ、ジョン・カザール出演『狼たちの午後』は、なぜこんなにも偉大な映画であり続けるのか?
忘れじのジョン・カザール
シドニー・ルメット監督と主演のアル・パチーノは、本作の前にも『セルピコ』(73)で組んでいる。また、『エイリアン2』(86)のビショップ役でブレイクする前のランス・ヘンリクソンは、捜査官マーフィー役で出演しているが(元々はソニーの恋人レオン役のオーディションを受けていた)、彼は本作への出演を機に、シドニー・ルメット監督の『ネットワーク』(76)と『プリンス・オブ・シティ』(81)に起用されることとなる。さらに、もうひとりの捜査官シェルドンを演じたジェームズ・ブロデリックは、マシュー・ブロデリックの実父。本作の後、残念ながら55歳の若さで急逝したのだが、代わりに息子のマシューが『ファミリービジネス』(89)でシドニー・ルメットと組むことになるという縁がある。そして、主要キャストの中で忘れてはならないのは、ソニーの相棒・サル役を演じたジョン・カザールだ。
ジョン・カザールとアル・パチーノは『ゴッドファーザー』(72)で兄弟を演じた仲。実生活でも親友だった。彼が演じた実際のサルは、事件当時まだ15歳の少年。それゆえ、キャスティングには異論があったと言われている。脚本を担当したフランク・ピアソンは「ボッティチェリの天使のような少年に描いた」と述懐しているが、ジョン・カザールの風貌は、とても天使には見えない。そもそも、公開当時カザールの年齢は40歳だった。あまりのイメージの違いに、アル・パチーノに推薦されたシドニー・ルメット監督も難色を示していたという。
『狼たちの午後』(c) 2007 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.
アル・パチーノがソニーを演じるにあたって重要だったのは、ソニーとサルが“親しくない”と解釈することだった。そのアプローチを共有できたのが、舞台仲間でもあったジョン・カザールだったのだ。結果、カザールの演技アプローチにはルメット監督も魅了されることに。ソニーとサルが徐々に打ち解けてゆく姿を劇中で構築できたのは、アル・パチーノとジョン・カザールがキャスティングされたからこその賜物なのだ。もしも脚本通りに演出されていたならば、現在我々が観ているような『狼たちの午後』にはなっていないはずなのだ。
前述した「過ぎし日のアモリーナ」は、場面が変わり、銀行強盗を企てるソニーとサルが待機する車内のカーラジオから流れていた曲だったことが判明する(劇場公開時に発売されたシングル・レコードのタイトルは「麗しのアモリーナ」だった)。この曲の歌詞は、アモリーナという変わった名前の恋人を想う男のことを歌っている。つまり、『狼たちの午後』においては、ソニーと恋人の関係を想起させる楽曲になっているのだ。
「アモリーナ」
そして奇遇にも、今となってはジョン・カザールのことを想う歌にも聴こえてくる。カザールはたった5本の出演作を残して、1978年に42歳で早逝しているからだ。出演作である『ゴッドファーザー』、『ゴッドファーザーPARTⅡ』(74)、『ディア・ハンター』の3本はアカデミー作品賞の受賞作、『カンバセーション…盗聴…』(74)はカンヌ国際映画祭グランプリ(当時の最高賞)に輝いた作品。亡きカザールの出演作は、すべてが不朽の名作なのだ。そんなカザールが出演した『狼たちの午後』は、疑いなき偉大な映画と言えるだろう。
【出典】
『狼たちの午後』 劇場パンフレット
IMDb 「Dog Day Afternoon」 https://www.imdb.com/title/tt0072890/
産経新聞 2019.2.12 https://www.sankei.com/affairs/news/190212/afr1902120007-n1.html
外務省 https://www.pk.emb-japan.go.jp/VisitingJapan/mofa.pdf
文:松崎健夫
映画評論家 東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻修了。テレビ・映画の撮影現場を経て、映画専門の執筆業に転向。『ぷらすと』『japanぐる〜ヴ』などテレビ・ラジオ・ネット配信番組に出演中。『キネマ旬報』、『ELLE』、映画の劇場用パンフレットなどに多数寄稿。現在、キネマ旬報ベスト・テン選考委員、ELLEシネマ大賞、田辺・弁慶映画祭、京都国際映画祭クリエイターズ・ファクトリー部門の審査員を務めている。共著『現代映画用語事典』(キネマ旬報社)ほか。
『狼たちの午後』
ブルーレイ ¥2,381+税/DVD ¥1,429 +税
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