(C)2016 Everybody on Deck - TF1 Droits Audiovisuels - UCG Images - France 2 Cinema
『ポリーナ、私を踊る』振付家が映画監督になるとき。異業種監督の成功の秘訣とは
振付家だからこその映像や演出法
しかし振付家は、ミュージカル界だけに存在するわけではない。バレエやコンテンポラリー・ダンスの分野でも名だたる振付家が世界中に存在する。しかし彼らが映画監督に進出した例は、極めて少ない。そんな異例のキャリアとなったのが、『ポリーナ、私を踊る』のアンジュラン・プレルジョカージュである。
『ポリーナ、私を踊る』アンジュラン・プレルジョカージュ(C)2016 Everybody on Deck - TF1 Droits Audiovisuels - UCG Images - France 2 Cinema
プレルジョカージュはフランス出身で、コンテンポラリー・ダンス界では世界的に知られる存在で、1980年代から何度も来日公演を行っている。ソロダンスから大規模なアンサンブルまで、官能的で大胆な動き、日常の動作と地続きの動作も取り入れた,唯一無二の振付が特徴だ。
この『ポリーナ、私を踊る』はヴァレリー・ミュラーと彼の共同監督作。名門ボリショイ・バレエへの入団をめざすロシア人の少女が、本当に自分が踊りたいものを発見するために、フランス、ベルギーへと移動するストーリーだ。ダンサーを主人公にした点が、振付家の監督作としてふさわしいが、映像にも独特の視点がみてとれる。トウシューズの過剰なアップや、ステージのシーンを上部のカメラのみで撮るなど、ちょっと考えつかないカットがあちこちに挿入されている。ダンス映画を観慣れた人にとっても斬新なカットによって、ダンスの新たな可能性を見出せる。これこそ、振付家というキャリアが生きた部分だろう。
プレルジョカージュはインスピレーションも独特だ。影響された作品について次のように語る。
「『2001年宇宙の旅』こそ、ダンス映画の見本だと思う。類人猿がモノリスのまわりで骨を投げたり、『美しき青きドナウ』に乗って宇宙船が回るのもダンスだ。『2001年~』は今回の映画はもちろん、これまでの私の振付作品でもヒントにしてきた」。
また、共同監督のヴァレリー・ミュラーは、「俳優が行き詰まったときに、肉体表現で指導して、解決策を発見させる」と、振付家が監督を務めるメリットを説明する。
映画のダンスと、振付家の表現としてのダンス。それも異なったアプローチがあるようで、たとえば『ポリーナ、私を踊る』でのダンスシーンの振付では、主人公がどんな思いでそのダンスを踊るのか。そしてカメラワークを考慮して、どんな見せ方が効果的なのかが意識されたという。舞台での作品では考える必要もない作業もあり、作り手としてはそこが刺激的だったそうだ。
ちなみに、プレルジョカージュ本人も、地下鉄駅のホームレス役で映画に登場。顔が見えないのは残念だが……。