(c)2019 Universal Pictures and Storyteller Distribution Co., LLC. All Rights Reserved.
『1917 命をかけた伝令』計算しつくされたワンカットの「流れ」で、舞台劇のように感情移入させるアプローチ
2020.02.18
オープニングからラストへ、ひとつの「輪」が完成される感覚
こうした正真正銘のワンカットではなく、『ロープ』のようにテクニックでつないだ作品が、『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(14)、そして『1917』である。ただ、実際の時間の流れも忠実に再現した『ロープ』と異なり、『バードマン』や『1917』は、映画内での時間の経過が、全体の上映時間とは食い違っている。『1917』では約2時間に、夕刻あたりから翌朝までの時間が経過しているわけで、その「短縮された時間」をワンカットで見せることで、余計な部分が削ぎ落とされる「映画らしさ」を伴うことにもなった。
『1917』の2人の主人公、スコフィールドとブレイクは、ワンカット演出のカメラとともに戦場をまっすぐに進みつつ、映画自体はオープニングからエンディングがひとつの「サークル」を形成している。『バードマン』もオープニングでは部屋の中で宙に浮いていた主人公が、ラストは窓の外へ飛び立っていった(と思われる)。両作品とも、ワンカットの流れに乗った観客が、主人公のひとつの「帰結」に感情移入しやすい演出がなされたと言える。
『1917 命をかけた伝令』(c)2019 Universal Pictures and Storyteller Distribution Co., LLC. All Rights Reserved.
舞台演出家として「時代の寵児」であったサム・メンデスは、初の映画監督作でいきなりアカデミー賞作品賞・監督賞に輝いた『アメリカン・ビューティー』(99)で、あえて自身の舞台的演出の志向を遠ざけ、映画的ケレン味を強調したシーンも多かった。それから20年。『1917 命をかけた伝令』は、広大なスケールのセット、CGなど、絶対に映画でしか表現できない手法を駆使しながら、ワンカットという感覚で観客を引き込むアプローチで、自身の舞台的欲求もかなえたと考えてもいいかもしれない。
文: 斉藤博昭
1997年にフリーとなり、映画誌、劇場パンフレット、映画サイトなどさまざまな媒体に映画レビュー、インタビュー記事を寄稿。Yahoo!ニュースでコラムを随時更新中。
『1917 命をかけた伝令』
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