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『突撃』スタンリー・キューブリックのエモーション溢れる反戦映画
『突撃』あらすじ
1915年、第一次世界大戦の戦線。フランス軍のブルーラール大将は、“アリ塚"と呼ばれるドイツ軍の堅固な陣営を打ち崩すべく、ミロー大将の師団に総攻撃を命令する。しかし、その無謀な攻撃計画にミロー大将の部下ダックス大佐は反対するが、作戦命令が覆ることはなかった。作戦が開始されると、ダックス大佐は兵士たちの先頭に立ち戦うが敵の壮絶な攻撃に前進を阻まれ、撤退を余儀なくされてしまう...。
Index
カーク・ダグラスが惚れ込んだシナリオ
「何年経ってもいい映画がある。それを知るために50年も待つ必要はない」
自らが主演した『突撃』(57)に対するカーク・ダグラスのコメントである。どんだけ自画自賛なんだという気もするが、おそらく自分の偉業を讃えるというよりも、スタンリー・キューブリックに対する畏敬の念を、素直に表明したものと捉えるべきだろう。事実、この映画が公開されて50年以上が経過した現在でも、『突撃』は戦争映画の偉大なる到達点の一つとして映画史に鎮座している。
時計の針を’50年代に戻してみよう。『現金に体を張れ』(56)でハリウッド・デビューを飾ったキューブリックは、当時映画界から注目される存在となっていた。MGMで製作部門のチーフを務めていたドア・シャリーもその一人。彼はキューブリックを雇い、会社に山積みになっていたシナリオや原作本を片っ端からあたらせて、スクリプト作りを厳命したのである。
『突撃』予告
キューブリックが目をつけたのが、ハンフリー・コッブが1935年に発表した『栄光への小径』。「第1次世界大戦中に、フランス軍兵士が軍事裁判によって理不尽に処刑される」という実話をベースにした反戦小説である。出版直後には、『シェーン』(53)や『ジャイアンツ』(56)で知られる監督のジョージ・スティーヴンスも、この小説の映画化を考えていた。しかし第二次世界大戦が差し迫ったタイミングで、反戦映画を撮るリスクを冒したくないスタジオ側の意向もあり、結局見送りとなっていたのである。
高校時代にこの小説を愛読していたキューブリックは、ドア・シャリーに『栄光への小径』の映画化を鼻息荒くプレゼン。しかしシャリーは首をタテには振らなかった。なんせ話は暗いし陰惨だし、どう考えても商業的な成功は見込めない。公平にみて、ドア・シャリーの判断は至極真っ当なものだったと言えるだろう。
しかしキューブリックは納得しない。業を煮やした彼は、俳優のカーク・ダグラスに企画を持ちかける。アカデミー主演男優賞にノミネートされた『チャンピオン』(49)をきっかけにスター俳優となったカーク・ダグラスは、自らのプロダクション「ブライナカンパニー」で製作を行うプロデューサーでもあった。彼は一読して脚本に惚れ込み、こんな言葉をキューブリックに投げかけたという。
「スタンリー、この映画は一銭も儲からないと思うが、作らなければならない」