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『突撃』スタンリー・キューブリックのエモーション溢れる反戦映画

© 1957 Harris Kubrick Pictures Corp. All Rights Reserved. © 2019 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved.

『突撃』スタンリー・キューブリックのエモーション溢れる反戦映画

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キューブリックの異常な完璧主義



 主演にハリウッド・スターのカーク・ダグラスを迎えることに成功したキューブリックは、本格的に『突撃』の製作をスタートさせる。製作費は100万ドルにも満たないささやかなものだったが、その1/3となる30万ドルがカーク・ダグラスのギャラに充てられた。キューブリックは前作の『現金に体を張れ』に続いて、ノーギャラ仕事になってしまう。


 それでも、キューブリックの映画製作にかける熱意は並々ならぬものだった。いや、「常軌を逸していた」と言った方が正確かもしれない。「撮影期間が長い」とか「何十回も何百回もテイクも重ねる」とか、現場におけるキューブリックの完璧主義者エピソードは事欠かないが、すでにこの頃から本領は発揮されていた。


 例えば、処刑を目前に控えたフランス軍兵士たちの「最後の晩餐」シーンには、68テイクが要された。俳優たちは何度も実際に食事する羽目になり、テイクのたびに新しいローストダックを用意する必要があったという。彼らが監禁室で自分たちの運命について語り合うシーンは、74テイク。しかも、時間外労働となる土曜日の撮影だった。プロデューサーのジェームズ ・B.・ハリスが規定違反であることを伝えても、キューブリックは頑としてそれを受けれいれず、自分の思い通りの画を求めてテイクを重ねた。フランス軍のブルラール大将を演じたベテラン俳優アドルフ・マンジュウに対しても、17回もの撮り直しを要求。何度も演技をさせては「もう一回」とテイクを繰り返し、マンジュウを激昂させてしまう。



『突撃』© 1957 Harris Kubrick Pictures Corp. All Rights Reserved.  © 2019 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved.


 映画には塹壕の場面が登場するが、この環境も劣悪だった。サンオーバン少佐を演じたリチャード・アンダーソンは、「塹壕は陰惨だったよ。悪臭を放っているし、天気はとても悪いし…凍えるような寒さで、空は曇っていて灰色だった。僕たちはみんな病気だったよ」と恨み節。しかし、「それが映画にプラスになったのは確かだ」とも語っている。


 カーク・ダグラスとの折り合いも決して良くなかった。キューブリックは原作を大きく改変してしまうことで知られているが(『シャイニング』(80)のスティーヴン・キングなどが分かりやすい例、そのせいで原作者とのケンカも絶えなかった)、この時も原作『栄光への小径』に忠実だったシナリオを、さらにオリジナルなものに変更しようとしたのだ。ダグラスはプロデューサー権限を発動して、元の脚本で撮影するように指示。監督と主演俳優のあいだに、微妙なシコリが生まれてしまっていた。




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