名作になるほど映画化は難しい?
ハムリッシュと同様に、自身で映画版に新曲を加えたのは、たとえば『オペラ座の怪人』の際のアンドリュー・ロイド・ウェバーだ。さらに『レ・ミゼラブル』でも、オリジナル版の作曲家、クロード=ミシェル・シェーンベルクが映画化の際に「サドゥンリー」という新曲を提供している。このように基本の曲はオリジナルに忠実ながら、同じ作曲家が一部の追加をすることで、世界観を維持しつつ映画化の「意味」を刻印しているかのようだ。
また『美女と野獣』のように、映画→舞台→映画と変遷をとげた作品は、舞台化の際に曲が追加されたうえ、最新の映画のためにも新たな曲が作られたりしている。同作の場合、作曲はアラン・メンケンがすべて手がけているが、作詞のハワード・アシュマンは亡くなっているので、ティム・ライスに引き継がれている。
『マンマ・ミーア!』は、オリジナルの舞台版で使われた4曲が、映画版では割愛されている。『コーラスライン』でも、新たな2曲が単に差し代わっただけではなく、それ以外にも映画で使われなかった曲が存在する。舞台の場合は、基本的にインターミッションが(休憩)が入るので、前半のラストに山場があったりするのだが、映画は途切れずに進行するもの。そういった意味で、曲順の変更、曲の削除はよくあることで、舞台版と映画版、両方を観比べられるのもミュージカルというジャンルの大きな楽しみなのである。
最後に、「コーラスライン」は舞台の初演から10年後にようやく映画になった。近年、メジャーな名作であるほど、映画化までの長い期間を要するようで、「マンマ・ミーア!」で9年、「オペラ座の怪人」は18年、「ドリームガールズ」は25年、「レ・ミゼラブル」と「シカゴ」に至っては27年後となっている。「CATS」は何度か映画化の話も出たが、いまだに実現していない。傑作ミュージカルになるほど、映画化も難しいのである。
文:斉藤博昭
1997年にフリーとなり、映画誌、劇場パンフレット、映画サイトなどさまざまな媒体に映画レビュー、インタビュー記事を寄稿。Yahoo!ニュースでコラムを随時更新中。スターチャンネルの番組「GO!シアター」では最新公開作品を紹介。
(c) Photofest / Getty Images