映画そのもののイキがイイ!
本作最大のヴィランは、言うまでもなく毒ヘビたちだ。撮影のためにヘビ調教師が用意した本物の蛇はおよそ450匹。機内の床を這うヘビは、ほとんどが本物の蛇を使って撮影された。もちろん、役者たちを危険にさらすわけにはいかないので、これらの本物のヘビに毒はない。ただし、噛まれる危険はあったとのこと。とはいえ役者の中には本物のヘビとの共演におそれをなし、オーディションをすっぽかす者もいたという。
映画の設定上で登場するヘビは600匹。その足りない部分を補ったのが、リアルなCGヘビだ。狂暴なヘビを相手に次々と格闘を挑むジャクソンの多くの場面で、このデジタルの”共演者”が大活躍。必然的に撮影時のジャクソンは独り芝居を強いられたのだが、舞台のキャリアが豊富で、『スター・ウォーズ』のエピソード1~3でデジタルを相手にした経験もある彼は、難なくそれをこなしたという。
『スネーク・フライト』公開の翌年、タランティーノは1960~70年代のB級映画専門館にオマージュを捧げた『グラインドハウス』(07)を発表。それは『スネーク・フライト』の全米&世界興収には及ばなかったが、B級映画に“グラインドハウス”という新たな名称をあたえ、タランティーノのネームバリューによって若いファンをその魔力に引きずり込んでいった。
振り返ると、『スネーク・フライト』は21世紀にB級映画の新たな波を生み出すための、先陣を切った作品ともいえるのではないか。
ともかく、本作が無茶苦茶でもイキのよい映画であるのは間違いない。改めて2020年の今、見直してジャクソンのヒロイックな姿に触れると、「このクソな地上から、クソなパンデミックを一匹残らず放り出してやる!」という、根拠はないが勢いだけはある、そんな気持ちになる。
現実的ではない悪趣味な夢物語と言われればそのとおりだが、B級映画とはそういうものだ。夢を徹底的に拡張したところに、見る者の生気を高める何かがある。“飛行機の中で暴れる毒ヘビ”というトンデモ設定にときめいたあなたなら、その意味がわかるはずだ。
文: 相馬学
情報誌編集を経てフリーライターに。『SCREEN』『DVD&動画配信でーた』『シネマスクエア』等の雑誌や、劇場用パンフレット、映画サイト「シネマトゥデイ」などで記事やレビューを執筆。スターチャンネル「GO!シアター」に出演中。趣味でクラブイベントを主宰。
(c)Photofest / Getty Images