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『リトル・ジョー』その花が開くとき、幸せの概念が消失する――妖しきアートホラー

『リトル・ジョー』その花が開くとき、幸せの概念が消失する――妖しきアートホラー

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尺八や和太鼓、ビビッドな色彩が創出する美しき混沌



 『リトル・ジョー』はあらすじからして独自性の高い作品だが、映像面・音楽面でも特異な輝きを放っている。我々の目にまず飛び込んでくるのは、時にどぎつささえ感じられるビビッドな色彩だ。


 マスコミ用の資料に掲載されているハウスナー監督のコメントを引用すると、これにはある種の「おとぎ話」的な風合いを付加する狙いがあったそう。「たとえば、色彩にはミントグリーンと白、そして花の赤、極端に言えば幼稚にも見えるこの配色で、映画におとぎ話や寓話的なムードを演出しています。ここでアリスの赤いマッシュルームヘアは非常に重要なポイントで、この演出を象徴しているとも言えるでしょう」(ハウスナー監督)。


 研究員たちが身に着ける白衣もデザイン性にあふれており、ちょっとしたファッションショーのよう。これには、おとぎ話としての意味合いを強めるとともに、「時代背景を分からなくさせる」という狙いもあるのだとか。なるほど、小物や衣装、色遣いは、浮世離れしたどこか悪夢的なムードを生み出してもいる。




 カメラワークも、冒頭の俯瞰のショットから360度回転したり、あるいは距離感を保って遠くから見つめたり、背後から忍び寄るような不規則な動きをしたり、独自の意志を持って動いているかのよう。観客の予想のつかない動きで、不穏な空気感を醸し出す。


 そして、音楽。日本の作曲家、伊藤貞司によるアルバム「Watermill」の収録曲が使用されており、冒頭から尺八の音が響き渡る。雅楽的なサウンドやくぐもって聞こえるお囃子の音、さらに複数の犬の鳴き声が要所要所で流れ(物語が新たな展開を見せると鳴り始めたり、リトル・ジョーのテーマ的な曲があったりと、非常に意図的にシーンに組み込まれている)、何とも言えない空恐ろしさがひたひたと忍び寄ってくるよう。


 ジェシー・アイゼンバーグとミア・ワシコウスカが共演した不条理劇『嗤う分身』(13)でも、劇中で昭和歌謡が流れることで不気味さが強調されていたが、『リトル・ジョー』でも、価値観やリアリティが消失していく中で“新たな概念”が生まれる過程を、このような装置を使って巧みに表現している。


 また、本作はテーマ的にも『ミッドサマー』(19)と共通している部分があり(後述する)「明るさこそが怖い」というニュアンスやトーンも、近いものがあるように思う。



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