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『リトル・ジョー』その花が開くとき、幸せの概念が消失する――妖しきアートホラー

『リトル・ジョー』その花が開くとき、幸せの概念が消失する――妖しきアートホラー


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強豪ひしめくカンヌ国際映画祭で、女優賞を受賞



人に幸福を届けるため、生み出された真紅の花。

その香りが導くのは、解放か、隷属か――。


 2019年に開催された、第72回カンヌ国際映画祭。『パラサイト 半地下の家族』(19)が最高賞パルムドールを受賞し、監督賞は『その手に触れるまで』のダルデンヌ兄弟、男優賞は『ペイン・アンド・グローリー』(19)のアントニオ・バンデラスに授与された。いずれも傑作ぞろいだが、激戦を勝ち抜き、見事女優賞に輝いた作品が日本公開を迎える。エミリー・ビーチャムが主演を務めた『リトル・ジョー』(19)だ。


 この『リトル・ジョー』、一言で言うならぞっとするアートホラー。研究者が品種改良によって作り上げた「人々を幸せにする花」がもたらす、恐ろしい事態を描いている。こう書くと、モンスター映画か!?と期待してしまう方もいるかと思うが、本作に登場する花「リトル・ジョー」は、巨大化して暴れまわったりはしない。ただ、存在感をじわじわと強めていき、人間を支配していく。そういった意味では、確かにモンスター映画なのかもしれない。


 まずは、あらすじをご紹介したい。研究者のアリス(エミリー・ビーチャム)は、画期的な花の開発に成功した。多忙な現代人のライフスタイルに合わせた「放っておいても大丈夫な花」ではなく、「定期的に世話をしないと枯れてしまう花。その代わり、愛すれば愛するほど“幸せ成分”を分泌する」というもの。温暖な環境で育て、毎日水を与えること、そして話しかけること。ある種の“家族”として接することで、癒し効果を得られるというコンセプトだ。



 彼女はその真紅の花を、息子の名前をとって「リトル・ジョー」と命名。息子のジョー(キット・コナー)を喜ばせたい一心で会社の規定を破り、自宅に一輪持ち帰って育て始めるが、やがてジョーが奇妙な行動を起こし始める。時を同じくして、リトル・ジョーの花粉を吸ったアリスの助手クリス(ベン・ウィショー)や、アリスの同僚ベラ(ケリー・フォックス)の愛犬のベロにも異変が。これはリトル・ジョーの仕業なのか?


 このおぞましくも甘美な作品を生み出したのは、カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門の常連といえるジェシカ・ハウスナー監督。レア・セドゥが出演した『ルルドの泉で』(09)では、第66回ヴェネチア国際映画祭の国際批評家連盟賞を受賞した実力派だ。長編5作目となる『リトル・ジョー』では、第72回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に選出された。


 本作と共にコンペティション部門に選出されたのは、前出の『パラサイト 半地下の家族』『ペイン・アンド・グローリー』『その手に触れるまで』のほか、クエンティン・タランティーノ監督作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(19)、ジム・ジャームッシュ監督作『デッド・ドント・ダイ』(19)、グザヴィエ・ドラン監督作『マティアス&マキシム』(19)、ケン・ローチ監督作『家族を想うとき』(19)、テレンス・マリック監督作『名もなき生涯』(19)といった錚々たる名監督たちの作品。そこにしっかりと食い込んできた時点で、ハウスナー監督と『リトル・ジョー』が大きな期待を寄せられていたことがわかるだろう。


 こういったエッジーな物語が選ばれることは少々意外に思えるかもしれないが、前年に行われた第71回カンヌ国際映画祭では『アンダー・ザ・シルバーレイク』(18)がコンペティション部門、『ボーダー 二つの世界』(18)が「ある視点」部門に選出。そのさらに前年の第70回カンヌ国際映画祭では『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』(17)や『ジュピターズ・ムーン』(17)がコンペティション部門、『散歩する侵略者』(17)が「ある視点」部門に選出されており、受け入れる土壌はしっかり整っていたといえよう。



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