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『デッド・ドント・ダイ』ジャームッシュが込めた、文明批評とジョージ・A・ロメロへのリスペクト

『デッド・ドント・ダイ』ジャームッシュが込めた、文明批評とジョージ・A・ロメロへのリスペクト

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風刺コミックのような文明批評



 『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(84)で知られるアメリカの人気監督、ジム・ジャームッシュがゾンビ映画を撮ったと聞いて、最初はちょっと意外な気がした。それまでホラーというジャンルとは、あまり縁のないフィルモグラフィだったからだ。


 例外的に彼がホラーに接近したのが『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』(13)で、ヴァンパイアの恋人たちが主人公だ。ただ、人を襲う場面はほとんどなく、主人公は冷蔵庫でワインのように冷えた血をグラスでお上品に飲んでいた。ホラーの雰囲気は希薄で、ラブストーリーの方がメインだった。


 ところが今回は、モンスターが人間を襲う場面がひんぱんに出てくる。襲われそうになる人間も、銃やハンマーでゾンビの首をバシリと狙い打ち!劇中、多くの首が宙を舞う。こんなにグロテスクな場面が多いジャームッシュ映画も珍しいかもしれない。



 とはいっても、ひょうひょうとしたユーモアが個性の監督ゆえ、グロな場面にも笑いがまぶされている。ゾンビたちは「コーヒー」、「ファッション」、「シャルドネー(ワイン)」、「Wi-Fi」と、同じ言葉を何度も繰り返すが、それは生前、自分が1番、こだわっていたもの。それがほしくて町をうろつくモンスターは、モノにこだわりがちな現代人のパロディなのかもしれない。


 そんなゾンビ像を見ていると、ジャームッシュのキャリアについて考え直したくなる。もし、彼に絵の才能があったら、コミック・アーティストになって、風刺マンガで才能を発揮できたかもしれない……。


 彼の短編を集めた『コーヒー&シガレッツ』(03)など、思えばコミックを読むような感覚だった。今回の新作はいつになくグロテスクな描写があるが、セリフにはドライな感覚があって、オフビートな笑いは健在。アメリカの小さな町、センターヴィルの住人たちが、予期せぬゾンビの出現にあわてふためく姿は、彼なりの“風刺コミック”として見ることができる。


 主人公は3人の警察官。署長のクリフ(ビル・マーレイ)、巡査のロニー(アダム・ドライバー)、署員のミンディ(クロエ・セヴィニー)。ある日、ニワトリが盗まれたという通報があり、クリフとロニーは調査を始める。町には小さなダイナーやモーテル、ガソリンスタンドを兼ねた雑貨店など、本当に小さな店しかないが、最初の犠牲者が出て、町に恐怖が広がる。




 最初にロニー巡査の腕時計が止まり、そこから次々に異変が起きる、という展開だが、あるインタビューでジャームッシュは答えている――「いま、僕が気になっているのは、地球の環境問題だ。これまでの歴史でなかったほど、自然が破壊されているが、人間は自分のために靴を買うことしか考えていない」(クライテリオン・コムより)。


 自然界に異変が起きて、そのせいでゾンビが出現し、平和な町の均衡が崩れる。そんな中でも、人間たちは自分の欲望のためだけに生きようとしている。


 ジャームッシュ流のゾンビ映画には、そんな現代に対する視点が込められている。混乱した人間界を遠くから監視しているのが、“世捨て人”ボブ(トム・ウェイツ)で、世の中をナナメから見る彼のキャラクターにも、今の時代に対する監督の皮肉な視点が出ている。


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