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『mid90s ミッドナインティーズ』自由への渇望を、1枚の板に乗せて――過日の記憶を呼び起こす青春劇

(c) 2018 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.  

『mid90s ミッドナインティーズ』自由への渇望を、1枚の板に乗せて――過日の記憶を呼び起こす青春劇

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90年代の“記憶”を呼び起こす装置たち



 『mid90s ミッドナインティーズ』の魅力は、大きく分けて2つあるといえよう。1つは、スケボーに象徴されるように、スーパーファミコンやファッション、劇中曲に至るまで90年代のポップカルチャーの要素が多数描かれている点だ。


 1983年生まれのジョナ・ヒルにとって、90年代は少年時代を過ごした時間。当時流行ったアイテムが多数登場する本作は、彼と同世代の人々にとっては、懐かしい子どものころを思い出すことができるだろうし、同時にカルチャー映画としても楽しめる。


 例えば冒頭、主人公のスティーヴィーが着ているのは「ストリートファイターⅡ」のTシャツ。そこに、シールの「キス・フロム・ア・ローズ」やGZAの「リキッド・ソード」といった、ジョナ・ヒルが選んだ楽曲リストが彩を添える(ちなみに、音楽を手掛けたトレント・レズナー&アッティカス・ロスは、ピクサーの新作『ソウルフル・ワールド』(20)にも参加)。



『mid90s ミッドナインティーズ』(c) 2018 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.  


 懐かしさを呼び起こすのは、アイテムばかりではない。ジョナ・ヒルは1995年当時の魚眼レンズを入手し、撮影に使用。さらに、当時の空気感を呼び起こすために、全編16mmフィルムでの撮影にこだわった。独特のざらつきや温もり、肌触りが、鑑賞者の記憶を呼び起こすスイッチになっているのだ。なお、フレーミングにおいてはガス・ヴァン・サント監督の『エレファント』(03)を参考にしているそう。


 また、役者たちには前述したように、当時の音楽が入ったiPodを渡したほか、スケボーのビデオや、ジョナ・ヒルが本作の制作にあたり影響を受けたという『This is England』(06)を見せ、映画のトーンを伝えたそうだ。


 余談だが、これまでのアメリカ映画やドラマにおける“ノスタルジー”は『ストレンジャー・シングス』(16〜)や、最近の作品であれば『カセットテープ・ダイアリーズ』(19)然り、80年代を舞台にして描かれることが多かった印象だが、それが90年代に移ってきたことに、時代の移り変わりを感じる。


『ストレンジャー・シングス』予告


 それはやはり、今回のジョナ・ヒルのように30代のクリエイターが台頭してきたからだろう。A24の作品に絞っても、『ミッドサマー』(19)のアリ・アスター監督、『WAVES/ウェイブス』(19)のトレイ・エドワード・シュルツ監督、『フェアウェル』(19)のルル・ワン監督、『ウィッチ』(15)や『The Lighthouse(原題)』(19)のロバート・エガース監督、そして『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』(18)のボー・バーナム監督など、30代の監督が並ぶ。


 A24の作品以外でも、シャイア・ラブーフの自伝的作品『ハニーボーイ』(19)や、日本でも大いに話題を集めている『はちどり』(18)など、30代のクリエイターによる90年代を舞台にした作品が台頭してきている。『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』(19)で監督デビューを飾ったオリヴィア・ワイルドも、現在36歳。


 日本でも、『新聞記者』(19)や『宇宙でいちばんあかるい屋根』(20)の藤井道人監督、『溺れるナイフ』(16)の山戸結希監督等々、30代前半の映画監督たちが活躍しており、今後ますます、90年代に子ども時代を過ごしたクリエイターたちの作品が隆盛を極めていくことだろう。



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