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『魔女がいっぱい』奇想天外なロアルド・ダールの世界を、名匠ゼメキスはどう生まれ変わらせたか?

(c)2020 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

『魔女がいっぱい』奇想天外なロアルド・ダールの世界を、名匠ゼメキスはどう生まれ変わらせたか?

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ダール作品を貫く、今を全力で生きるスピリット



 では、元々のダールの原作はいかにして生まれたのか。一説によると、本作には両親の母国ノルウェーにまつわる文化や伝承、はたまた子供嫌いの女性が切り盛りする駄菓子屋の思い出、そこで逆襲の意味を込めて菓子びんにネズミの死骸を入れる悪戯をしたこと・・・などが原風景として活かされているらしい。なるほど、確かにこういった要素が、本作を彩る”怪しさ”と”素っ頓狂さ”を引き出していったのかもしれない。


 だがこの作品の見所は決してそれだけではない。映像化されたものを観ながら改めて気づかされる「ダールらしさ」といえば、やはり主人公の心の変容だ。冒頭では茫然自失だった彼が、奇妙な冒険に乗り出すことで、活き活きと生命力をみなぎらせる。その光景には、何かこう、人間が持ちうる根源的なイマジネーションが悲しみを別次元へ昇華させていくような印象さえ受けるのだ。



   『魔女がいっぱい』(c)2020 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.


 ここで試しにダールの半生を紐解くと、彼もまた幼少期に家族を立て続けに亡くし、結婚後も長男が事故で重傷を負ったり、長女が病気で亡くなったり、奥さんが脳卒中に見舞われたりと、様々な苦難を経験してきた人であることが伺える。そんな中でも彼は人生を悲観しすぎることなく、今その場所で自分に何ができるのかを見つめ、自分のペースでコツコツと邁進し続けた。


 そのことについて彼の娘の一人は、当時を回顧する文章の中で「とにかく子供の頃は毎日が大変だった。けれど、父が語り聞かせてくれた奇想天外な物語に浸っていたせいか、たとえどんなことが現実に起ころうとも、決してうろたえたり、悲観しすぎるようなことはなかった」という趣旨のことを記している。なるほど、これもイマジネーションが実人生にもたらす力と言うべきものだろう。


 もちろんダール作品はそれ単体でも十分に楽しめるもの。だが二度目、三度目の読書時、鑑賞時には、こうやって彼の人生を重ねてみるのも良いかもしれない。そうすることで、彼の作品の定番ともいえる「奇想天外さ」や「荒唐無稽さ」といった味わいに、また別の角度から光を当てることができるはずだ。



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