次代のジャック・ニコルソン=ディカプリオ?
もちろん、イーストウッドもディカプリオもプロフェッショナル同士。多少諍いはあれど、その後は特にわだかまりなく撮影を続けたという。あれだけワンテイクにこだわっていたイーストウッドも、ディカプリオの気持ちを汲み取ったのか、時には数テイクの撮影を敢行した。
特にディカプリオにとってありがたかったのは、老年期の撮影シーンを最後の2週間にスケジューリングしてくれたことだった。青年期、中年期、老年期を行ったり来たりすることなく、その年齢の芝居に集中できる環境をイーストウッドは与えたのである。…だがそれにしても、ディカプリオとアーミー・ハマーの老けメイクの杜撰さといったら!二人ともジョージ・A・ロメロのゾンビ映画のごとき死人顔と化しており、ほとんどコントとしか思えない。
『J・エドガー』(c)Photofest / Getty Images
映画レビューサイトRotten Tomatoesの評価を見てみると、イーストウッドの他の作品…例えば『マディソン郡の橋』(95)が90%、『ミリオンダラー・ベイビー』(04)が91%、『ミスティック・リバー』(03)が88%という高評価に比べ、『J・エドガー』は43%という低評価ぶりだ(この稿を書いている2020年12月14日時点)。老けメイクの失敗が響いたのか、ディカプリオは非常にリスクの高い選択をしたにも関わらず、思ったような成功を収めることはできなかったのである。
しかしディカプリオは諦めなかった。「己の生きる道は、エキセントリックな性格俳優である」と信念を曲げず、その後もアクの強すぎるキャラクターを好んで演じた。トム・クルーズが年々アクション・スターとしての色合いを強めてジャッキー・チェン化し、ブラッド・ピットが一貫してオトコ汁ほとばしるタフガイを演じ続けているのとは対照的に、ディカプリオは一人異次元のステージで戦っている。加齢と共に肥えていく体型と、狂気に満ちた芝居をみるにつけ、次代のジャック・ニコルソンは実は彼なんではないか、と筆者は密かに確信しているのである。
文: 竹島ルイ
ヒットガールに蹴られたい、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」主宰。
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