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2人の偉大な師に捧げられた傑作
『許されざる者』(92)こそ、クリント・イーストウッドの最高傑作と断じたい。もちろん内容が素晴らしく、アカデミー作品賞を受賞したこともあるが、筆者が最も心打たれるのはエンドロールの最後に掲げられた言葉だ。
―セルジオとドンに捧ぐ―
セルジオはイーストウッドをイタリアに招き、『荒野の用心棒』(64)、『続・夕日のガンマン』(66)などに主演させ、マカロニ・ウェスタンブームをまき起こしたセルジオ・レオーネ監督。もう一人は、『ダーティハリー』(71)、『アルカトラズからの脱出』(79)などのアクション・スリラー映画でイーストウッドをトップスターに押し上げたドン・シーゲル監督だ。
2人は『許されざる者』公開を待たず、相次いで世を去った。イーストウッドは自らの映画作りの範とする2人の師に本作を捧げたのだ。この一事からも、彼のキャリアの中で一際大きな「意味」を持つ作品であることがわかる。
その「意味」とは本作が、イーストウッドが数多く主演してきた西部劇というジャンルそのものへのアンチテーゼとなっていることだ。彼が目指したのは、アメリカの神話である西部劇の虚飾を暴くことだった。