2020.01.18
2020年5月で90歳になるクリント・イーストウッドは、マーティン・スコセッシ(現在77歳)よりもひと回り年上。にもかかわらず、2000年代に入ってほぼ毎年1本、時には2本のハイペースで新作を発表しているのは驚異的だ。長寿の秘訣は瞑想とヴィーガン食だというが、他にも何か秘密がありそうな気がする。
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爆弾テロの第一通報者が第一容疑者になったわけ
さて、そんなイーストウッドの監督最新作『リチャード・ジュエル』は、アトランタ・オリンピック開催中の公園で起きた、爆破テロ事件を描く実録ドラマだ。主人公の警備員リチャード・ジュエルは、公園内のベンチ下にセットされたパイプ爆弾をいち早く発見、被害を最小限に食い止めたことから一躍英雄となる。ところが、FBIがジュエルに疑惑の目を向けていることをメディアが実名で報道、一転、彼は第一容疑者のレッテルを貼られてしまう。
現代社会に於けるメディア・リンチ(犯罪事件等で、メディアが庶民感情を煽る形で被害者や加害者のプライバシーを一方的に垂れ流すこと)の深い闇が、個人を奈落の底に突き落とす構図は、『ハドソン川の奇跡』(16)と共通するし、同じく、実在する市井のヒーローを描いたという意味では、『15時17分、パリ行き』(17)ともリンクする。