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『許されざる者』アメリカの神話=西部劇の虚飾をはぎ取った、イーストウッドからのメッセージ

『許されざる者』アメリカの神話=西部劇の虚飾をはぎ取った、イーストウッドからのメッセージ

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暴力が連鎖する映画を救う妻のメタファー



 『許されざる者』は暴力の連鎖によってストーリーが駆動する作品ではあるが、見るものを殺伐とした気分にさせることはない。


 19世紀の西部を意識した、ほの暗い照明と美しい風景が印象的な撮影、ゆったりとした時間の流れと、人物の心情を炙り出す繊細な演出と編集、それらが相まって、(皮肉なことに)神話的な格調高さをまとっているのだ。


 本作が陰惨な暴力劇に堕さなかったもうひとつの大きな理由は、マニーの妻・クローディアのエピソードだ。マニーはかつて手の付けられない荒くれ者だったが、クローディアに出会ったことで改心し真人間になった。しかし、妻は天然痘で亡くなってしまった。この妻のエピソードが冒頭に字幕で説明され、さらにラストでも字幕でこう説明される。


 クローディアの母親が後年、マニーを訪ねたが、一家はすでに引っ越していた。母はなぜ若く美しい自分の娘が、札付きの荒くれ者のマニーと結婚したのか遂にわからなかった。




 神のような慈悲を以て、悪人マニーを導き、暴力に回帰したマニーを、死してなお、またもとの善良な農夫に引き戻した妻の存在こそ、人間の善性の象徴だろう。そして妻は主人公マニーの行動に決定的な影響を与えていながら、物語の世界とは違う位相から「許されざる者」たちを静かに見守っている。


 それはまるで神の視点である。この妻の視点があることで、本作は寓話的品格を手に入れることができた。だから、『許されざる者』は暴力に溢れていながら、殺伐とした印象を与えない。


 さらに、この妻の存在は、もう一つ別のメタファーとも捉えられる。冒頭で紹介したセルジオ・レオーネとドン・シーゲルである。


 イーストウッドにとって映画の師といえるこの2人は、自分を教え導いた神のような存在であり、本作も彼らから得た映画製作のノウハウあってのものだ。彼らは死してなお映画の良き魂として、イーストウッドを見守り、傑作を作らせたのだ。


 だから夕暮れに遠くシルエットとなった妻の墓のショットに「セルジオとドンに捧ぐ」と字幕が出た時、それは彼らの墓標にも見えるのである。



文:稲垣哲也

TVディレクター。マンガや映画のクリエイターの妄執を描くドキュメンタリー企画の実現が個人的テーマ。過去に演出した番組には『劇画ゴッドファーザー マンガに革命を起こした男』(WOWOW)『たけし誕生 オイラの師匠と浅草』(NHK)『師弟物語~人生を変えた出会い~【田中将大×野村克也】』(NHK BSプレミアム)。



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『許されざる者』

ブルーレイ ¥2,381+税/DVD ¥1,429 +税

ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント

(c)2007 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

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