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『ボディガード』映画の向こう側にあるケヴィン・コスナーの羨望とホイットニー・ヒューストンの確執

© 2012 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

『ボディガード』映画の向こう側にあるケヴィン・コスナーの羨望とホイットニー・ヒューストンの確執

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ホイットニーの人生と重なる物語



 劇中でも説明されているが、「オールウェイズ・ラブ・ユー」は映画オリジナルの楽曲ではない。元々はドリー・パートンが作詞作曲し、彼女自身が歌ってヒットしたカントリーソング。『テキサス1の赤いバラ』(82)に主演した際には、再録したバージョンが劇中で使用されている。ドリーによる複数のバージョンが存在するため、音楽ファンの間では「どのバージョンであるか?」ということで議論が絶えない楽曲だが、バーでケヴィン・コスナーとホイットニー・ヒューストンがダンスをする劇中の場面では、サントラ未収録のジョン・ドーによるカントリー調のバージョンが使用されている。


「オールウェイズ・ラブ・ユー」


  ホイットニー・ヒューストンが演じた人気歌手レイチェル。この役は、本人の実生活を想起させるという点でも話題となった。公開当時、ホイットニーもまた人気絶頂のミュージシャンだったからだ。そもそもスティーヴ・マックイーン主演の企画として始まった際、レイチェル役にはダイアナ・ロスが想定されていたという経緯がある。ザ・スプリームスのメンバーとして活躍し、1970年に脱退。『ボディガード』の脚本が執筆されたのは、彼女がソロデビューしただけでなく、ビリー・ホリデイの伝記映画『ビリー・ホリデイ物語/奇妙な果実』(72)で俳優デビューを果たし、アカデミー主演女優賞の候補にもなった時期だった。


 だが、『My Bodyguard』と名付けられた脚本の企画は頓挫した。ダイアナ・ロスの度重なる脚本に対するダメ出し、スティーヴ・マックイーンの降板。マックイーンの代わりにライアン・オニールがキャスティングされたが、脚本は前進しなかった。ライアンは当時のことを振り返り「ラブシーンを演じることをロスが拒否した。黒人であることを強調される会話も嫌がっていた」と述懐している。


 1970年代は、黒人と白人のロマンスを本格的に描けるような時代ではなかった点も頓挫した理由のひとつに挙げられる。『ボディガード』の翌年に公開された、ジュリア・ロバーツとデンゼル・ワシントン共演作『ペリカン文書』(93)では、脚本にあったふたりのキス場面が本編では抱擁に変更されていた。当時、この変更は議論を呼んだが「ラブシーンを苦手とするデンゼルの提案」とアナウンスされて一応の決着をみたという経緯があった。そういう視点で考察すると、『ボディガード』は人種差別に対する新しい時代を告げた映画だったのだとも解せる。



 『ボディガード』© 2012 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.


 一方、レイチェルという役に対してホイットニー・ヒューストンは「彼女は自尊心を持った女性。自分で全てを決断する女性の役は滅多にありません。しかし、そういった女性を私はよく知っています。母がそうでしたから」と、演じることに強く惹かれたことを語っている。彼女の母は、歌手のシシー・ヒューストン。従姉にはディオンヌ・ワーウィックがいるという音楽一家に、ホイットニーは生まれた。『ボディガード』ではレイチェルの姉もシンガーだったことが説明されているが、人気者になった妹と姉の関係は、ホイットニーと彼女の母シシーとの関係を否応なく想起させるのだ。


 音楽の英才教育をした娘がスターとしてスポットライトを浴びる、その姿に嫉妬する母親。そんな捻れた母娘の確執は、ドキュメンタリー映画『ホイットニー〜オールウェイズ・ラブ・ユー』(18)でも描かれている。スーパースターであったホイットニーの波乱に満ちた人生。それが、決して幸せなものでなかったという符号においても、レイチェルという役とホイットニーの人生とを我々は同化させてしまうのである。


 スティーヴ・マックイーンもホイットニー・ヒューストンも鬼籍に入り、もうこの世にはいない。『ボディガード』のラストショット。一人佇むケヴィン・コスナーのストップモーションには、製作時に意図されていなかった寂寞感を覚えるという不可思議がある。



【出典】

・「秘められた野心 ケヴィン・コスナー物語」(シンコーミュージック)ケルバン・キャンディース著 小尾ちさほ・訳

・デラックスカラーシネアルバム46「ケビン・コスナー」村岡三郎+望月美寿・責任編集(芳賀書店)

・「ボディガード」劇場パンフレット

・ホイットニー・ヒューストン(Sony Music)

https://www.sonymusic.co.jp/artist/whitneyhouston/info/487354



文: 松崎健夫

映画評論家 東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻修了。テレビ・映画の撮影現場を経て、映画専門の執筆業に転向。『ぷらすと』『japanぐる〜ヴ』などテレビ・ラジオ・ネット配信番組に出演中。『キネマ旬報』、『ELLE』、映画の劇場用パンフレットなどに多数寄稿。現在、キネマ旬報ベスト・テン選考委員、ELLEシネマ大賞、田辺・弁慶映画祭、京都国際映画祭クリエイターズ・ファクトリー部門の審査員を務めている。共著『現代映画用語事典』(キネマ旬報社)ほか。



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『ボディガード』

ブルーレイ ¥2,381+税/DVDスペシャル・エディション ¥1,429 +税

ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント

The Bodyguard, © 2012 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

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