2020.05.28
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『ハーヴェイ』を引用した意味
「僕が道を歩いていたら、こういう声が聞こえたんだ、“こんばんはダウドさん”とね」
ジェームズ・ステュアートがそう語る場面を観ていた娘に対して、ケヴィン・コスナー演じる父親のレイは「あの男は変人なんだ」とテレビを消してしまう。この時、劇中のテレビで放映されていたモノクロの映画は、ヘンリー・コスター監督の『ハーヴェイ』(50)だ。
巨大な白うさぎ“ハーヴェイ”といつも一緒にいる、と主張するアル中の男が主人公のこの映画では、主人公のダウド氏以外の人間には“ハーヴェイ”が見えない。そして周囲の人間は、酒を飲み過ぎたせいで「ダウド氏は頭がおかしくなっている」と思っている。
(C) 1989 Universal City Studios, Inc. All Rights Reserved.
映画『フィールド・オブ・ドリームス』(89)の主人公レイ・キンセラは、トウモロコシ畑から聞こえてくる「それを作れば、彼はやってくる」という “声”に従って、農場の真ん中に野球場を作りはじめる。突然の行動に、周囲からは「気でも狂ったのか?」と思われているのだが、レイが地元の同業者たちに“声”について話しかける場面では、ご丁寧にビバリー・ダンジェロが歌う「クレイジー」という曲が店内で流れている。やがて、レイの作った野球場に、かつての名選手“シューレス”ジョー・ジャクソンのゴーストが現れることになる。
信じる人にしか見えない。つまり『ハーヴェイ』の引用は、野球に興じる選手たちの姿や作品テーマへの伏線になっていることがわかる。レイの娘カリンは『ハーヴェイ』の物語を信じながら観ていたわけだが、野球選手のゴーストを発見するのが彼女であるという設定の所以は、そんなところにもある。