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『ヒート』ロバート・デ・ニーロが演じた犯罪者は実在の人物だった!徹底した「本物」志向で築き上げたクライムサーガ
彼のように速く弾を装填できなければ追い出す!
『ヒート』の中盤、ロサンゼルスの市街地を舞台に繰り広げる12分間の銃撃戦は映画史の伝説だ。1テイクごとに800~1,000発もの空砲を使ったこの銃撃戦はその迫力とリアルさで革命的だった。中でも出色なのは、アサルトライフルをフルオートで撃ちまくるヴァル・キルマーが、弾倉をわずか3秒で交換するカット。この弾倉交換があまりにも見事なため、海兵隊の教官が兵士に「彼ぐらい速く装填できなければ追い出す!」と言い放った逸話が残されている。
『ヒート』にはこのシーン以外にも印象的なガンアクションがいくつも配されているが、それらを成功に導いたのは、役者たちが行ったコンバットシューティングの訓練だった。
コンバットシューティングとは実戦的射撃術のことで、実際に人間同士が撃ちあう時の技術を体系的にまとめたもの。これをマイケル・マンは初映画監督作である『 ザ・クラッカー/真夜中のアウトロー』(1981)から本格的に取り入れていた。
『ヒート』の役者たちはコンバットシューティングの訓練を3か月行ったが、デ・ニーロの犯罪者チームとパチーノの警官チームには別々のトレーナーがついた。警官と犯罪者では銃の撃ち方や扱いに微妙な違いがあることと、敵対する2つのチームに馴れ合いの空気を作らせないためだった。
『ヒート』(C)2017 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.
ホームレスにまで出演を依頼!「本物」のロケーションには「本物」の人間を
しかし、12分間の銃撃戦で最大の効果をあげたのはそのロケーションだろう。実際のロサンゼルスのオフィス街の大通りをまるごと週末に借り切り、市街地を使った白昼の大銃撃戦を実現させた。大通りを乱射しながら突き進む犯罪者チームと、それを追う刑事たちの距離感。ビルの谷間にこだまする耳をつんざく銃声。リアルな場所が生み出す効果は絶大だった。
LAという街の空気をリアルに表現したいと考えたマンは、ほとんどのシーンを本物の場所(ロケーション)で撮影することを選択した。室内シーンは音や照明をコントロールしやすいスタジオにセットを組んで撮影することが多いが、マンはコストがかかるロケ撮影にこだわり、ロケ地は106個所に及んだ。
さらにメインの俳優たちと共にフレームに収まるエキストラにも本物志向を貫き、現場検証を行う警察官や病院で働くナースも、役者ではなく実際の警察官や看護師に出演してもらった。さらにはロケ地の下見で出会った実際のホームレスにも出演を依頼。映画冒頭でデ・ニーロたちの犯行を目撃するホームレスは、ロケ地に実際に住んでいたホームレスだ。
監督のマイケル・マンは執拗なまでに作品を本物のオーラで包み込もうとする。そのオーラが役者の演技にまで影響しリアルさを増強、結果としてスクリーンの中のフィクションに熱(ヒート)を与える。観客はその「熱」に心焼かれるのだ。
文:稲垣哲也
TVディレクター。マンガや映画のクリエイターの妄執を描くドキュメンタリー企画の実現が個人的テーマ。過去に演出した番組には『劇画ゴッドファーザー マンガに革命を起こした男』(WOWOW)『たけし誕生 オイラの師匠と浅草』(NHK)など。現在、ある著名マンガ家のドキュメンタリーを企画中。
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