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『クリシャ』家族の“傷”を、当事者が演じる痛み。A24の秘蔵っ子、恐怖の初長編監督作

『クリシャ』家族の“傷”を、当事者が演じる痛み。A24の秘蔵っ子、恐怖の初長編監督作

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不穏なムードを掻き立てる冒頭5分



 ではここからは、『クリシャ』の中身について書いていきたい。まずは、簡単なあらすじから。


 かつて家族を捨てたことから、親族から疎まれているクリシャ(クリシャ・フェアチャイルド)。感謝祭に参加するべく、親戚一同の元に姿を見せたクリシャは、息子のトレイ(トレイ・エドワード・シュルツ)に後悔と謝罪を告げ、「自分は変わった」と語るが、聞き入れてもらえない。そんななか、精神的に不安定なクリシャが断酒の誓いを破ったことから、それぞれの関係性が大きく変容していく……。


 『イット・カムズ・アット・ナイト』や『WAVES/ウェイブス』でも顕著なように、シュルツ監督は映像派のクリエイターだ。カメラワークでの“遊び”や色彩感覚、どこかホラーテイストをはらんだじっとりした描写等々……。元々テレンス・マリック監督の下で修業していたというルーツからも、映像へのこだわりがうかがえる。そうしたシュルツ監督の特徴は、「実家での撮影」という限定空間でより明確に浮かび上がる。



『クリシャ』


 まずは、作品の冒頭から。オープニングからいきなり、クリシャのどアップとおどろおどろしい音楽の合わせ技というホラー調の演出で幕を開ける。ただ、彼女の瞳は痛々しさを感じさせるように血走っており、まるで誰かに脅迫されているような感覚を観る者に抱かせる。たとえば「OKと言うまで瞬きをしないで」と指示されたときのような、「何者かによって動かされている感」がそこはかとなく漂うのだ。そしてこの要素は、後々に大きく生きてくる。


 その後、家族の元へクリシャが訪ねてくるシーンへと移るが、ひとつ前のシーンから画角が変化している。『WAVES/ウェイブス』を観た後だと、ニヤリとさせられるのではないか。なお、ここからのクリシャの人物描写が秀逸だ。道路で待ち構えていたカメラのフレーム内に滑り込んでくる車はドアから服がはみ出ていて、その後に登場するクリシャは「大丈夫、大丈夫」と自己暗示をかけながら訪問すべき家を探す。親戚と断絶関係にある彼女は、目指すべき家がわからないのだ。道中でぬかるみに足を取られ「最悪!」と毒づくクリシャは、映画が始まって約5分間の間(冒頭のどアップのシーンも入れて)、所在なく彷徨い続ける。


 この時点で、クリシャの不安定さが強く印象付けられ、観る者はこれから巻き起こる事件の予兆を感じ取ることだろう。本作と同時期の作品の中には、『たかが世界の終わり』(16)や『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(16)など、「戻ってくること」が事件を巻き起こす作品も多いが、仮にこの2作と比較しても明らかに「災厄」のニュアンスが強い。それは、シュルツ監督の人物の映し出し方にもあるように感じる。


 カメラは家を探すクリシャと一定距離を保ちながら、彼女を背後から追いかけていく。とても「実家で親戚と撮った」とは思えないアットホーム感のなさ……偶然なのか意図的なのかわからないが、妙に多い車の数が気味の悪さを醸し出し、全体的にも悪夢的なムードが際立っていて、ぞくりとさせられる(A24が寵愛するわけだ)。




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