劇中同様の過酷な環境下でロケ撮影
本稿は『ライトハウス』のレビューだが、先にロバート・エガース監督の嗜好性について述べたのには、わけがある。そこについて言及する前に、改めてこの映画のあらすじと制作過程を端的に紹介しよう。
時は1890年代、場所はニューイングランドの孤島。灯台の管理のため、島を訪れた灯台守トーマス・ウェイク(ウィレム・デフォー)とイーフレイム・ウィンズロー(ロバート・パティンソン)。彼らは今日から4週間、ふたりきりで過ごさねばならないのだが、高圧的なウェイクと無口なウィンズローは初日から衝突してしまう。何とかやり過ごすものの、今度は嵐のせいで迎えの船が来ず、ふたりは島に孤立。灯台の光に取りつかれたウェイク、人魚の幻に悩まされるウィンズロー。彼らは狂気に支配され、夢とも現実ともつかぬ地獄で心が壊れてゆく――。
『ライトハウス』は、1801年にイギリスで実際に起きた事件をベースにしているそう。『ウィッチ』の資金調達に難航していたエガース監督は、弟マックスが灯台を舞台にした幽霊物語を書いていると知り、「こちらの方が成立させやすいのではないか」と思ったそうだ。そうして本格的に『ライトハウス』の企画に移り、当初は現代劇だった弟の脚本を時代モノに変更。先述の事件の要素を取り入れ、骨組みを作っていった。その途中で『ウィッチ』の制作が決まり、そちらに舞い戻ったというわけだ。
『ライトハウス』(C)2019 A24 Films LLC. All Rights Reserved.
ちなみに、『ライトハウス』は広義のワンシチュエーション作品だが、制作が容易だったわけではない。むしろその逆で、約30日間に及ぶ撮影は悪天候にさらされ続ける過酷なものだったという。波しぶきをかぶって濡れ、強風にあおられ……。映画には、スタッフ・キャストの苦痛がべっとりと塗りこめられている。しかも前述したように映像へのこだわりが異常に強かったため、「ロバート・パティンソンは25回海に入った」「照明を極端に明るくする必要があるため、俳優陣はお互いの顔が見えなかった。夜間でもスタッフはサングラスをかけていた」等々、なかなかに強烈なエピソードが並ぶ。
役者陣にしても、エガース監督のたっての希望で約1週間のリハーサル期間が設けられたというが(彼がシンメトリーの構図を愛しており、それもあって立ち位置の把握が必要だった)、舞台経験も豊富なデフォーと違い、パティンソンは新鮮な反応を撮影現場で生むために即興性を重視していたため、かなり面食らったそうだ。
そのパティンソンは、感情をあらわにするシーンに際し、雨水を飲んだり、指を口に突っ込んだりと独特なアプローチで準備を行ったとか。また、デフォーは生きたまま埋められるシーンがあるが、顔に土を容赦なくかけられるなど相当体を張っている(パティンソンも滑りやすい岩の上を走る危険なシーンに挑戦)。
…とまぁ、舞台裏においても話題には事欠かない映画なのだが、それ以前にこの映画には作り手と観客の間に、ある重要な、一種の“問題点”があるような気がしてならない。