『ライトハウス』あらすじ
1890年代、ニューイングランドの孤島に2人の灯台守がやって来る。 彼らにはこれから4週間に渡って、灯台と島の管理を行う仕事が任されていた。 だが、年かさのベテラン、トーマス・ウェイクと未経験の若者イーフレイム・ウィンズローは、そりが合わずに初日から衝突を繰り返す。 険悪な雰囲気の中、やってきた嵐のせいで2人は島に孤立状態になってしまう。
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徹底した“時代モノ”へのこだわり
映画監督、ロバート・エガース。1983年生まれの38歳。彼は、クラシックへの憧憬が非常に強いクリエイターだ。小学生で『吸血鬼ノスフェラトゥ』(1922)にハマり、高校で本作を舞台化、プロになってからはリメイク企画を動かすほどのライフワークにしてしまった。
“推し”の監督はイングマール・ベルイマン(1918年生まれ)で、好きな日本映画は『雨月物語』(53)ほか。アンドレイ・タルコフスキー(1932年生まれ)、ミヒャエル・ハネケ(1942年生まれ)、ヴェルナー・ヘルツォーク(1942年生まれ)……彼にインタビューをした際に名が挙がってきた監督は、いずれも大家ばかり。その他の記事を漁ってみても、かろうじて確認できた“比較的、若手”の監督はクリストファー・ノーランくらいだ。
とはいえ、ノーランはセシル・B・デミル(1881年生まれ)、エリッヒ・フォン・シュトロハイム(1885年生まれ)、D・W・グリフィス(1875年生まれ)といった監督たちの影響を語っており、エガース以上に筋金入り。好きな作品のジャンルは違えど、古き良き時代の映画を好むという意味では、両者には近しいところがあるようにも思える。
それ以外にエガース監督の口から出てくる映画監督は、アリ・アスターやトレイ・エドワード・シュルツといったA24の申し子たち。彼らはエガース監督にとってもはや親友であり盟友だろうから、またちょっと性質が異なる。
『ライトハウス』予告
そんなエガース監督だから、作る映画は全部が全部“時代モノ”。初期作『Hansel & Gretel』(07)から『ウィッチ』(15)、『ライトハウス』(19)、公開待機作『The Northman』(22)に至るまで、徹底して過去の要素を含む作品ばかりを作り続けてきた。バイキングを描く『The Northman』においては自身初のメジャー大作になるそうで、スタイルを全く変えずにステップアップしてきた点には、畏敬の念を抱かずにはいられない。
しかも、「時代モノを現代風に撮る」のではなく、17世紀が舞台の『ウィッチ』は1.66:1、19世紀末が舞台の『ライトハウス』は1.19:1と、アスペクト比も徹底してクラシックスタイルを貫いている。ようやく日本公開を迎えた『ライトハウス』においては、全編がモノクロ。出来得る限りのフィルム撮影を行い、使用したカメラレンズは1910~30年代のものだったとか。弟のマックスと共に書き上げた脚本には、冒頭に「この映画は、35mm白黒ネガフィルム、アスペクト比1.19:1、音声はモノラルで撮影する必要がある」と記されていたという。
そうした努力の甲斐あってか、本作は2020年の第92回アカデミー賞で『1917 命をかけた伝令』『アイリッシュマン』『ジョーカー』『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』と共に撮影賞の候補に選出された。