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『ライトハウス』ロバート・エガース監督 小学生で怪奇映画に没頭。A24が惚れた鬼才の“原点”【Director’s Interview Vol.125】
ようやく、の言葉がふさわしいのではないか。A24の秘蔵っ子のひとりロバート・エガース監督のアカデミー賞候補作『ライトハウス』(19)が、7月9日に遂に日本公開を迎える。
2019年の第72回カンヌ国際映画祭では、国際映画批評家連盟賞(FIPRESCI賞)を受賞した本作。過去には『サウルの息子』(15)や『Girl/ガール』(18)が選ばれた賞だ。2020年の第92回アカデミー賞では、『1917 命をかけた伝令』『アイリッシュマン』『ジョーカー』『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』と共に撮影賞の候補に選出され、しのぎを削った。
全編モノクロ、アスペクト比1.19:1のクラシック・スタイルを踏襲した本作は、19世紀末のニューイングランドが舞台。灯台の管理のため、絶海の孤島にやってきたふたりの灯台守トーマス・ウェイク(ウィレム・デフォー)とイーフレイム・ウィンズロー(ロバート・パティンソン)。高圧的なウェイクと無口なウィンズローは初日から衝突し、険悪な雰囲気に。どうにか4週間の勤務をやり過ごそうとするが、嵐のせいで島に孤立してしまい、次第に精神が崩壊していく……。
盟友のアリ・アスター監督が絶賛した点からも伺い知れるように、一筋縄ではいかない“ヤバさ”が全身にみなぎった本作。男たちが壊れていくさまは観る者を戦慄させ、現実と妄想が融解していくさまには我を忘れさせられるだろう。約2年の時を経て海を渡り、日本へとやってきた『ライトハウス』は、待つにふさわしい怪作であった。
今回は、エガース監督に単独インタビュー。いかにしてこの鬼才が生まれたのか、彼のルーツに迫っていく。
Index
小学生で『吸血鬼ノスフェラトゥ』に出会い、覚醒
Q:ロバート・エガース監督は、A24のポッドキャストでアリ・アスター監督と対談した際に『吸血鬼ノスフェラトゥ』(1922)のお話をされていましたよね(https://a24films.com/notes/2019/07/the-aster-eggers-watch-list)。小学校の図書館で出演者マックス・シュレックの画像を見て、心惹かれたと。それこそ、本作のリメイクも控えているかと思いますが、当時はどういった部分に惹かれたのでしょう?
エガース:僕が通っていた小学校の図書館に、色々なモンスターをコレクションした書籍があったんです。その中でマックス・シュレックを見たときに、とにかくカッコいい、いままで見た中で一番だなと感じたんですよね。ただ僕は当時すごく田舎に住んでいて、Amazonもまだなかったんです。それで、お店に行って『吸血鬼ノスフェラトゥ』のビデオを注文して取り寄せましたね。
ラッキーだったのは、当時ロバート・ダウニー・Jr.がチャップリンを演じた『チャーリー』(93)が公開されていたこともあって、サイレント映画への興味が高まっていたこと。『吸血鬼ノスフェラトゥ』も、何度も何度も見返しました。
その後僕は、高校に入ってから『吸血鬼ノスフェラトゥ』を舞台化しました。モノクロの無声映画を舞台で再現するという試みで、身体を白黒に塗って……。地元の小さな劇場での公演でしたが、その経験が自分の人生を変えてくれました。あのとき「これ(ものづくり)を一生やっていきたい」と強く感じたんです。
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Q:ルーツのお話、すごく面白いです。エガース監督の『ウィッチ』(15)も今回の『ライトハウス』も大好きなのですが、どちらもエレガントな恐怖がありますよね。それは、『吸血鬼ノスフェラトゥ』のようなクラシックホラーの影響が大きいのでしょうか。
エガース:そうですね。『吸血鬼ノスフェラトゥ』に関しては、もはや自分の一部になっていますから。僕の映画の構成を細かく見ていけば、多くの共通点が見いだせるでしょうね。時間の無駄かもしれないけど(笑)。
『ウィッチ』に関していうと、イングマール・ベルイマンやミヒャエル・ハネケといった監督たちの影響を受けています。彼らが作っているのはホラー映画ではありませんが、怖さがありますよね。それは、人間の暗部を描いているから。だからこそ、一般的なホラー映画よりぞくっとさせられます。『ライトハウス』もそうした人間の暗部を描きつつ、ホラー映画的な要素を入れています。
ただ、明確なホラー演出は入れていません。あと、ホラー映画は往々にして、観客を助けるようなはっきりしたストーリーがありますよね。ですが、『ライトハウス』においてははっきりしないまま物語が進んでいく。そうした違いはありますね。