2021.10.12
米作家ジャック・ロンドンの言葉
ところで『007 スカイフォール』(12)では、公聴会で発言を求められたMの引用するイギリスの桂冠詩人アルフレッド・テニスンの言葉が作品に風格を与えたが、今回はふとしたところで、アメリカの作家ジャック・ロンドンの言葉が引用される(*1)。
ジャック・ロンドンといえば、最近だとハリソン・フォード主演の『野性の呼び声』(20)や高評価を獲得したイタリア映画『マーティン・エデン』(19)の原作者としても知られる。40歳という若さで1916年に亡くなるまで、様々な職業を転々とし、世界を股にかけて冒険を重ね(ロンドンではイーストエンドに広がる貧民街に潜入し「どん底の人びと」というルポルタージュにまとめた)、数多くの著作を残し、まさに時をギュッと凝縮させたかのように人生を分厚く生きた作家だ。
『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ 』© 2021 DANJAQ, LLC AND MGM. ALL RIGHTS RESERVED.
実はイアン・フレミング著「007は二度死ぬ」(映画ではなく原作小説の方)でも、後半のとある部分で、まさにこのジャック・ロンドンの一節が添えられる。それがどんな内容であるかは『ノー・タイム・トゥ・ダイ』本編および「007は二度死ぬ」小説にてぜひ確認して頂きたいところである。
余談だが、前作でミスター・ホワイトは、「娘を救ってくれたら、彼女が”アメリカン”の場所を教える」という台詞を口にしていた。これに連なる本作が、様々な紆余曲折の果てにシリーズ初となるアメリカ人監督によって撮られ、なおかつ米作家ジャック・ロンドンの言葉へと導かれていくのも、どこか運命の流れのようなものを感じさせてやまない。