ジェームズ・ボンドを例に挙げるまでもなく、スパイは身だしなみが大事。敵に対して自分のステイタスを端的に誇示するためのツールだからだ。『キングスマン』(14)では、コリン・ファース演じるハリーがこう言っている「スーツは現代版の鎧だ」と。
映画に出て来るスパイたちの着こなしは皆完璧。彼らから、スーツの着こなしを学んでみようではないか。
Index
- 『TENET テネット』(20)
- 『007 スペクター』(15)
- 『キングスマン』(14)
- 『コードネーム U.N.C.L.E.』(15)
- 『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』(11)
『TENET テネット』(20)
監督:クリストファー・ノーラン 出演:ジョン・デイビッド・ワシントン、ロバート・パティンソン
劇中でマイケル・ケイン演じるクロスビー卿は、ジョン・デイビッド・ワシントン扮する”名もなき男”に対して、「(大切なミッションを遂行するのに)億万長者を名乗るのなら、ブルックス・ブラザーズじゃダメだ」と辛辣に言い放つ。アメリカントラッドの老舗とは言え、新米サラリーマンだって手に入る個性のない定番スーツでは底が知れる、というのがクロスビー卿の真意である。
そこで、クロスビー卿からクレジットカードを譲り受けた”名もなき男”は、一転して次のシーンではシルバーのシャークスキンで仕立てられた3ピーススーツで登場する。演じるワシントンの決してマッチョではない上半身をV字型に見せてしまう抜群のフィット感、腰の位置を高く見せるスラックスのセクシーなラインは、アメリカントラッドの対極にある典型的なヨーロピアン・スタイルだ。
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逆に、ロバート・パティンソン演じるニールのワードローブはよりルーズで自由。フリーポートを偵察するシーンではダブルブレスト(ボタンが2列)のピンストライプのスーツで、またある場面ではヨレヨレのスーツに皺々のストールを首に巻いて現れたりする。それらは、時空を自由奔放に行き来するニールのライフスタイルの象徴とも言える。服は生き方の写しなのだ。
本作のコンセプトを監督のクリストファー・ノーランから受け取り、それをテーマに直結する衣装デザインに落とし込んだのは、ジェフリー・カーランド。ノーランとは『インセプション』(10)と『ダンケルク』(17)でも組んだことがあるベテランだ。
ショーン・コネリーが演じたジェームズ・ボンドの、タイムレスなダンディズムを踏襲したと言うカーランド。彼がセレクトしたスーツを意識して『TENET テネット』を再見すると、また新たな発見があるかもしれない。