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伝説のカリスマ雑誌編集者の半生『素敵なダイナマイトスキャンダル』のバックボーンをもっと知りたい人に!

©2018「素敵なダイナマイトスキャンダル」製作委員会

伝説のカリスマ雑誌編集者の半生『素敵なダイナマイトスキャンダル』のバックボーンをもっと知りたい人に!

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「裏の原作」と言うべき名著『自殺』のディープな世界



 この『 自殺』は第30回(2014年)講談社エッセイ賞を受賞したもので、自らの人生体験に沿いながら「自殺」というテーマをめぐって様々な想いや考察、独自の哲学を記した人気ブログ連載の書籍化だ。ある種、約30年の歳月を経た自著『素敵なダイナマイトスキャンダル』のリメイクといった側面を持つ一冊とも言えるだろう。


 その中で詳細に綴られているのが、末井と愛人関係にあった「Fさん」のことだ。映画では笛子という役名で、三浦透子が演じている。


 1982年の原作本『 素敵なダイナマイトスキャンダル』の段階だと、Fさんのことは「末井昭のオツカレ日記」という章の中にそれとなくチラッチラッと出てくるだけである。「スキナヒトと一緒にフェリーニの『 女の都』を観に行った」、「夜中に突然電話があった。『もうすぐ死ぬから、すぐ来て』という電話に、あわててタクシーに乗る」、「『このままサヨナラなんていやだよ。また会えることを信じています』という手紙が病院からくる」などの記述は、彼女のことを指すのだろう。


 一方『自殺』では「眠れない夜」という章で、Fさんとの出会いから始まり、不倫関係から腐れ縁的な倦怠へ、やがて彼女が精神に異常を来たしていく凄惨な顛末が赤裸々に語られている。


 映画の中に、末井と笛子が湖のほとりで密会デートしている時、どこからかママス&パパスの1965年の名曲「 夢のカリフォルニア」が流れてくる印象的なシーンがあるが、このモデルとなった実際のエピソードもここに記されているものだ。



『素敵なダイナマイトスキャンダル』©2018「素敵なダイナマイトスキャンダル」製作委員会


 末井の文章は基本的にとてもユーモラスなのだが、しかし「眠れない夜」の筆致はひたすら暗くて重い。笑える余裕がない、といった感じで、どこまでも壮絶かつ沈鬱だ。『自殺』の表紙は、ムンクの「叫び」を模したものなのだが、確かに本書は1982年の『素敵なダイナマイトスキャンダル』に比べると、生きることの物悲しさが前面化している。前著ではまるでブラックジョークのようにカラッと描出されていた母親のダイナマイト心中にも、本書ではもっとストレートに向き合っているのだ。


 そうなると冨永監督の映画は、『素敵なダイナマイトスキャンダル』が表の原作、『自殺』が裏の原作と言えるかもしれない。特に映画の後半は『自殺』の内省的なトーン(末井の言葉を借りれば「ドヨ~ン」とした気分)が作品全体を覆っていくような印象がある。


 ちなみに他に挙げられている参考文献を拾ってみると、末井の著作『 東京爆発小僧(トーキョー・ダイナマイト・キッド)』(1985年/角川文庫)に『 東京デカメロン 風俗異人見聞録』(1987年/角川文庫)。そして南伸坊が自身の体験記というアングルでエロ業界を活写した名著『 さる業界の人々』(初版は1981年/1994年にちくま文庫)。末井は「S君」として登場する。さらに荒木経惟とヌードモデルの掛け合いを対談形式で記録した『 ラブホテルで楽写』(1981年/白夜書房)。これは装幀を末井が手掛けている。


 確かにこれだけ読めば、映画『素敵なダイナマイトスキャンダル』のバックボーン学習は完璧だろう。ほとんどが中古でしか手に入らないレア本ではあるが、できればサブテキストもなるだけ併せて、映画の魅力を存分にお楽しみいただきたい。



文: 森直人(もり・なおと)

映画評論家、ライター。1971年和歌山生まれ。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)ほか。「週刊文春」「朝日新聞」「TV Bros.」「メンズノンノ」「キネマ旬報」「映画秘宝」「シネマトゥデイ」などで定期的に執筆中。



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『素敵なダイナマイトスキャンダル』

監督・脚本:冨永昌敬

Blu-ray&DVD  好評発売中

発売・販売元:バンダイナムコアーツ

©2018「素敵なダイナマイトスキャンダル」製作委員会


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