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『トップガン マーヴェリック』前作からの時間を一瞬で縮め、ノスタルジーと最新チャレンジの究極の融合
2022.05.26
心が震えるアイテムと音楽の記憶
キーとなるアイテムとしては、滑走路の戦闘機と並走するかのように、マーヴェリックがバイクを走らせるシーンに、レイバンのアビエーターサングラス、レザージャケット、改造されたKawasakiのニンジャバイクと、セルフパロディのごとくの“復刻”が胸を熱くさせる。そして前作でマーヴェリックらが乗ったF-14戦闘機“トムキャット”も登場する。
しかし、最も本能的に『トップガン』の記憶を甦らせるのは、音楽だろう。空母からの戦闘機の発着を臨場感たっぷりに映した『トップガン』のオープニングは、ケニー・ロギンスの「デンジャー・ゾーン」が重なり、この曲は映画とセットになって記憶された。映画史に残ると言ってもいい、映像と曲の一体感が『トップガン マーヴェリック』でほぼ完璧に再現される。そして要所のスコアも、この続編ではハンス・ジマーが起用されつつ、前作のハロルド・フォルターメイヤーも参加し、聴き覚えのあるサウンドが散りばめられた。
さらに前作と同じ使用曲といえば、「グレート・ボールズ・オブ・ファイヤー」がある。日本語で「火の玉ロック」とも訳される、伝説のロックシンガー、ジェリー・リー・ルイスの代表曲は、『トップガン』でグースが弾き語りをした。『トップガン マーヴェリック』では息子のルースターがその曲をバーでピアノを演奏しながら歌い、大いに盛り上がる。説明不要の感動シーンだ。これは余談になるが、『トップガン』でグースの妻キャロルを演じたのがメグ・ライアンで、彼女の最初の夫、デニス・クエイドは『グレート・ボールズ・オブ・ファイヤー』(89)でジェリー・リー・ルイスを演じている。
『トップガン マーヴェリック』© 2022 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.
そのバーのシーンでは、ジュークボックスから流れる曲にもタイムスリップの効果がある。「レッツ・ダンス」はデヴィッド・ボウイの1983年の曲。そして「ゲット・イット・オン」はT・レックスが1971年に発表したが、パワー・ステーションによる1985年のカバーも人気となった。明らかに80年代のムードが強調されているのだ。こうした『トップガン マーヴェリック』におけるノスタルジーの喚起は、前作からのタイムラグを縮めるわけだが、これは「あの時代は良かった」という映画の“後退”にならないか? 確かにそれも一理ある。しかし一方で、IMAXカメラ6台をひとつの機に搭載し、かつてない飛行アクション映像も実現。1980年代、革新的なエンタテイメントに挑んだハリウッドの精神を受け継ぎながら、未来を見据えた最新のチャレンジも『トップガン マーヴェリック』はこなしている。
この融合による成功の要因を作ったのは、やはりトム・クルーズだろう。続編の実現に向けて、飛行シーンの「実写」にこだわり続けた彼の意思によって、CGでは決して表現できないレベルの体感映像が実現したからだ。時代を超えて、映画がなぜ人々を興奮させ、感動させるのか。ノスタルジーや実写で古き良き伝統を受け継ぎつつ、前人未到の冒険心に挑んだ『トップガン マーヴェリック』は、そのひとつの答えになっていると思う。
おそらくトム自身も続編に心から満足しているに違いない。自身が所有する軍用機、P-51マスタングも劇中に登場させたシーン。そこでの彼の微笑みは、人生をかけて燃やし続ける映画へのチャレンジ精神が正しかったという、自信の表れのようであった。
取材・文:斉藤博昭
1997年にフリーとなり、映画誌、劇場パンフレット、映画サイトなどさまざまな媒体に映画レビュー、インタビュー記事を寄稿。Yahoo!ニュースでコラムを随時更新中。
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『トップガン マーヴェリック』
2022年5月27日(金)
配給:東和ピクチャーズ
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