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『FLEE フリー』アニメーションだからこそ真実を伝えることが可能になった奇跡

© Final Cut for Real ApS, Sun Creature Studio, Vivement Lundi!, Mostfilm, Mer Film ARTE France, Copenhagen Film Fund, Ryot Films, Vice Studios, VPRO 2021 All rights reserved

『FLEE フリー』アニメーションだからこそ真実を伝えることが可能になった奇跡

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アフガン難民の同性愛者として顔も名前も出せない



 『FLEE フリー』も一応、「紛争」を背景にしている。主人公のアミンは、紛争で混乱が続くアフガニスタンに生まれ成長するが、父親が連行されたことで残された家族とともに国外への脱出を決意する。ただ、戦場が直接的に背景になるわけではなく、先述の作品のようにメインテーマが戦争ではない。


 『FLEE フリー』のヨナス・ポヘール・ラスムセン監督は、なぜこのアミンの物語を描くうえで、アニメーションを選んだのか。そこにはいくつかの理由が存在する。


 まずアミン本人を実写で撮るわけにはいかなかったこと。アミンというのも偽名である。デンマークの小さな町で育ったラスムセン監督が、アフガニスタン難民のアミンと出会ったのが高校生の時。その後、ドキュメンタリーをメインとした映像作家になったラスムセンは、2015年くらいにイラクからの難民がデンマークに数多くやって来た光景を見て、彼ら一人一人の顔を自作で伝えたいという欲求にかられたという。ラスムセンは、自身の祖先もロシアを逃れてデンマークへたどり着き、ユダヤ人ということで迫害を受けた祖母の家族はヨーロッパを転々としており、この難民というテーマには強い執着もあった。



『FLEE フリー』© Final Cut for Real ApS, Sun Creature Studio, Vivement Lundi!, Mostfilm, Mer Film ARTE France, Copenhagen Film Fund, Ryot Films, Vice Studios, VPRO 2021 All rights reserved


 この新作へのモチベーションが、高校時代から友人だったアミンと結びつく。ラスムセンは高校卒業後もアミンと親しい関係を続け、一緒に旅行などもする仲だった。しかしアミンは、複雑な手段も使ってデンマークへ逃れてきた身であり、しかも同性愛者。祖国のアフガニスタンは厳格なイスラム教国家であり、同性愛者は容認されない。アミンの素性が映画で公になることは避けたいので、ラスムセン監督はアニメーションによって素顔を出さないと決めた。


 さらにもうひとつ、アニメーションへの決め手となったのは、アミンの子供時代を描きやすくなるからだと、ラスムセン監督は告白する。1990年代、アミンが過ごしたアフガニスタン、カブールの街の雰囲気、またジャン=クロード・ヴァン・ダムへの憧れから、アミンが同性への想いを高めるプロセスを、実写で丁寧に描くことのハードルは高い。ラスムセン監督は、アニメーションだからこそ当時の風景を再現することができ、人物の秘めた感情や、その繊細な動きを表現することができたと語る。


 アミンの家族はアフガニスタンからモスクワへ向かうが、そのモスクワのシーンも、アニメーションゆえにリアルに描かれていると、『FLEE フリー』を観れば実感するはずだ。





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