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『FLEE フリー』アニメーションだからこそ真実を伝えることが可能になった奇跡
『FLEE フリー』あらすじ
アフガニスタンで生まれ育ったアミンは、幼い頃、父が当局に連行されたまま戻らず、残った家族とともに命がけで祖国を脱出した。やがて家族とも離れ離れになり、数年後たった一人でデンマークへと亡命した彼は、30代半ばとなり研究者として成功を収め、恋人の男性と結婚を果たそうとしていた。だが、彼には恋人にも話していない、20年以上も抱え続けていた秘密があった。あまりに壮絶で心を揺さぶられずにはいられない過酷な半生を、親友である映画監督の前で、彼は静かに語り始める…。
Index
アカデミー賞で“異例”の3部門ノミネート
2022年(2021年度)の第94回アカデミー賞では、ノミネートで史上初めてとなるケースがあった。国際長編映画賞、長編ドキュメンタリー賞、長編アニメ映画賞の3部門で、ひとつの作品がノミネートされたのだ。デンマーク映画(スウェーデン、ノルウェー、フランスとの合作)の『FLEE フリー』だ。国際長編とドキュメンタリーの2部門ノミネートというのは、近年よくあるケースだった。『ハニーランド 永遠の谷』(19/第92回アカデミー賞ノミネート)、『コレクティブ 国家の嘘』(19/第93回アカデミー賞ノミネート)と、2年続けてその2部門にノミネートされた作品もある。しかしそこにアニメ部門も加わるのは、きわめて異例。そもそもドキュメンタリーでアニメという作品が珍しいからだ。
ドキュメンタリーであり、アニメーション。そこに違和感を持つ人もいるかもしれない。一般的にドキュメンタリーといえば、作り手が実際の出来事や証言などを映像で記録したもの、あるいは過去に記録された材料などで構成した「実写」がほとんどだから。アニメにした時点で「実際の出来事」ではなく「作り物」という印象が強くなってしまう。しかしドキュメンタリーの定義は「虚構を用いずに、実際の記録に基づいて作ったもの。記録文学・記録映画の類。実録」とある(広辞苑より)。実録であれば、その表現方法は自由だと言える。実写のドキュメンタリーであっても、さまざまな素材を作り手の意図で組み合わせ、現実から一歩離れた世界へとシフトする可能性もある。そもそもマーベル作品など現代のアクション映画はCGを多用しており、実写とアニメの境界は、より曖昧になっている。
『FLEE フリー』予告
このアニメーション・ドキュメンタリーでは過去にも、たとえばイスラエルの『戦場でワルツを』(08)が、アニメーションながら、いくつかの映画賞でドキュメンタリー部門の受賞やノミネートを果たした。監督自身がイスラエル軍の兵士としてレバノン戦争の最前線に立った過去を、実録としてアニメーションで描いた作品だ。また、スペイン内戦をきっかけに、強制収容所での過酷な生活と脱走を経験した実在の画家が主人公のアニメ『ジュゼップ 戦場の画家』(20)、北朝鮮の強制収容所の実態を脱北者の証言を基に3Dアニメで描いた『トゥルーノース』(20)などもドキュメンタリー要素が色濃い。
ドキュメンタリーとアニメを混ぜて、かつて「アニメンタリー」という造語も存在した。かなり時代をさかのぼるが、1971年のTVアニメで、太平洋戦争での史実を描いた、タツノコプロダクションの「アニメンタリー 決断」に、その言葉が残っている。宮崎駿監督の『風立ちぬ』(13)などにも実録的な部分があったりと、アニメーション・ドキュメンタリーは戦争をテーマにした作品が目立つ。