2018.05.15
意外に少ないフィギュアスケート映画
この『アイ,トーニャ』が示すように、フィギュアスケートは映画の題材にふさわしいと感じる。アメリカではプロスケーターによるショーがビッグビジネスになっており、トッププロたちのスター性がハリウッドの世界と重なるからだ。しかし映画の歴史を振り返ると、フィギュアスケートを描いた作品は思いのほか少ない。その理由のひとつとして、トップレベルの演技を実写で撮ることが難しかったことが挙げられる。野球など他のスポーツに比べ、高度なジャンプやスピンなどは、カット割や編集で“ごまかす”ことが困難だからだ。
『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』Copyright © 2017 AI Film Entertainment LLC.
フィギュアスケートの映画で有名なのは、1978年の『 アイス・キャッスル』だ(日本は翌1979年公開)。フィギュアスケート選手をめざす主人公が、氷上での転倒事故で失明してしまい、それを乗り越えて大会に出場するという、ある意味、少女コミックのような世界。しかしフィギュアスケートのシーンは本格的であった。ヒロインを演じたリン=ホリー・ジョンソンは、全米フィギュアスケート選手権のノービス(10から14歳のクラス)で2位になった実力者。19歳でプロスケーターに転向した直後に、この『アイス・キャッスル』の主演に抜擢された。もちろん現在のオリンピック選手のレベルとは違うが、映像にはしっかりとプロの技が刻み込まれ、観る者を納得させる作りになっている。リン=ホリー・ジョンソンはその後、『 007 ユア・アイズ・オンリー』(1981)などに出演し、近年も女優としての活動を続けている。
日本でも1986年に、倉本聰が監督を務めた『時計 Adieu l’Hiver』という作品があった。ここでコーチ役を務めたいしだあゆみはフィギュアの経験者で(彼女の姉、石田治子は1968年のグルノーブル・オリンピックのフィギュア日本代表)、役に説得力を与えることになった。やはりフィギュアスケート映画には経験者が必要であり、1993年にはスケート未経験のD・B・スウィーニーとモイラ・ケリーが主演した『冬の恋人たち』という映画も作られたが、演技シーンは明らかに代役というのがわかる「残念」な結果に終わっている。