これまでとかけ離れたキャラクター
ダスティン・ホフマン、ジョン・ヴォイト、ロイ・シャイダー、フランク・シナトラ、ウィリアム・ホールデン…。錚々たる俳優たちが、主人公フランク役を熱望したと言われている。最終的にその座を射止めたのが、スランプのドン底でもがいていたポール・ニューマンだった(彼はシドニー・ルメットの第一候補でもあった)。かつての盟友ロバート・レッドフォードが降板した役を引き受けるというのは、彼のプライドを考えると難しい決断だっただろう。いや、逆に「落ちぶれ弁護士役を演じるのは、今こそ一世一代の演技ができるチャンス」と捉えたのかもしれない。彼は並々ならぬ覚悟で出演を受諾する。
他のスター俳優たちに漏れず、彼はこれまで実年齢よりもかなり年下の役を演じ続けてきた。『明日に向って撃て!』のブッチ・キャシディや『暴力脱獄』(67)のルーク・ジャクソンは30歳そこそこに見えるが、実際には40代。『スラップ・ショット』のレジ役は30代後半に見えるが、すでに50歳を過ぎていた。だがこの『評決』では、頭髪には白いものが混じり、端正なマスクには皺が刻まれている。酒に溺れた初老の弁護士を、ありのままの姿で演じてみせたのだ。
『評決』(c)Photofest / Getty Images
これまでのポール・ニューマン像とはかけ離れたキャラクターへの挑戦。彼はインタビューで、こんなコメントを残している。
インタビュアー:「あなたの新しいイメージに大衆はどう反応すると思いますか?観客が期待するポール・ニューマンとは、全く異なるものですよね?」
ポール・ニューマン:「観客が、“恐怖に震えてパニックになった酔っ払い”としての私を受け入れてくれるかどうか、興味深いところだね。アメリカの観客は、イギリスやイタリア、フランスの観客に比べて、キャラクターの変化に対して寛容ではない。(中略)しかし、私はこのキャラクターに共感しているよ。なぜなら私たちは皆、ある種の弱さを持ち合わせているからだ」(※2)
間違いなく本作におけるポール・ニューマンの演技は、役者人生のハイライトの一つに挙げられるだろう。最大の見せ場と言ってもいい最終弁論のシーンをワンテイクで演じきったことは、今や語り草である。