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『評決』ポール・ニューマンが復活を果たした、酒に溺れた初老弁護士のリ・ボーン

(c)Photofest / Getty Images

『評決』ポール・ニューマンが復活を果たした、酒に溺れた初老弁護士のリ・ボーン

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評決シーンがなかった初期シナリオ



 プロジェクトは問題続きだった。ハリウッドではよくある話だが、書き直しの連続でシナリオがいつまで経っても固まらない。デヴィッド・マメットがイキりすぎてしまったためか、書き上げたシナリオがあまりにもヘビーかつダウナー、おまけに陪審員が審議のために退席した直後に映画が閉幕するという、観客の心を宙ぶらりんにするようなエンディング。『評決』というタイトルでありながら評決シーンが存在しない、ハードエッジすぎる内容だったのである。さすがにやり過ぎ!とアーサー・ヒラーが異を唱え、結局プロジェクトから離脱してしまう。


 事態を収拾しようと動いたのが、主演を打診されたロバート・レッドフォードだった。まず彼は、『チャイナ・シンドローム』(79)で監督・脚本を務めたジェームズ・ブリッジズに声をかけ、スクリプトの一新に着手。大酒飲みの女たらしという主人公フランクのキャラが自分にはそぐわないと判断し、もっと真人間として描くことも要求した。だが、ジェームズ・ブリッジズがリライトしたスクリプトは、ロバート・レッドフォードやプロデューサーを納得させるものではなかった。書き直せど書き直せど、一向に納得するシナリオは上がってこない。結局ジェームズ・ブリッジズはプロジェクトから離れ、ロバート・レッドフォードも降板してしまう。



『評決』(c)Photofest / Getty Images


 暗礁に乗り上げてしまった『評決』の映画化に名乗りをあげたのが、シドニー・ルメット。『セルピコ』(73)、『狼たちの午後』(75)、『ネットワーク』(76)と社会派の傑作を次々と世に送り出した名匠だ。彼はこれまで書き上げられたシナリオ全てに目を通し、デヴィッド・マメットのオリジナルこそが本作にふさわしい脚本であると判断する。彼のコメントを抜粋してみよう。


 「デヴィッド・マメットは、『評決』を初めて映画化した。ある大スターが映画に興味を持ったんだが、彼は自分のキャラクターにもっと肉付けをしなければならない、と思った。(中略)別の脚本家が連れてこられた。マメットの脚本で語られていないことをただ埋めるだけで、高額な報酬を手にした。そして脚本は崩壊した。そこでスター俳優は、3人目の脚本家と一緒にやってみないかと誘った。彼らはさらに5回書き直した。この時点で、この映画の脚本料は100万ドルになっていたんだ。脚本はどんどん悪くなっていったがね。スター俳優は、徐々に人物像に重点を置くようになった。マメットは、酔っぱらいが汚い事件を次々と解決していき、ある日救いの手を差し伸べるチャンスに出会い、恐怖に駆られながらそれを手に入れるというストーリーを書いていた。このスター俳優は、このキャラクターの不快な面を排除し続け、観客が彼に共感できるように、彼をより愛すべき存在にしようとしたんだよ」(※1)


 この“大スター”が、ロバート・レッドフォードであることは明白。プロデューサーの意を汲んで、エンディングに評決シーンを入れることにはしたものの、ベースはほぼデヴィッド・マメット版で製作することを決意する。かくして、新体制のもと『評決』(82)は再スタートを切った。





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