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『評決』ポール・ニューマンが復活を果たした、酒に溺れた初老弁護士のリ・ボーン

(c)Photofest / Getty Images

『評決』ポール・ニューマンが復活を果たした、酒に溺れた初老弁護士のリ・ボーン

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ハリウッド・スターとしてのリ・ボーン



 シドニー・ルメットの作劇術も冴え渡っている。筆者が特に感心したのは、効果音の使い方。酒をガブ飲みするポール・ニューマンを逆光気味に捉えたファースト・シーンでは、ピンボールのけたたましい音だけが辺りを埋め尽くしている。シャーロット・ランプリングからの電話を、ポール・ニューマンが悲痛な表情で受け流すラスト・シーンも、ただ電話音だけが鳴り響くだけ(このシーンは元々脚本にはなく、ルメット、ニューマン、ランプリングの三人で作り上げたと言われている)。スコアをあえて使わないことでメロウな感傷性を排除し、初老の男の孤独を浮き上がらせるような演出が見事だ。


 ポーランド出身の撮影監督アンジェイ・バートコウィアクによる、冬枯れのボストンをダークなトーンで活写したカメラも素晴らしいし、ジョニー・マンデルによるエモーションを抑制した劇伴も心にしみる。シドニー・ルメットの出世作『十二人の怒れる男』(57)で陪審員6番を演じたエドワード・ビンズ、陪審員7番を演じたジャック・ウォーデンという気心の知れたベテランを脇に置き、敵対する弁護士にジェームズ・メイスン、謎めいた美女にシャーロット・ランプリングを配置するキャスティングも完璧だ。



『評決』(c)Photofest / Getty Images


 残念ながら本作は、アカデミー賞で5部門(作品賞、監督賞、主演男優賞、助演男優賞、脚色賞)にノミネートされるも、1つも受賞することができなかった。6度目のアカデミー主演男優賞にノミネートされたポール・ニューマンも、『ガンジー』(82)のベン・キングズレーの前に敗れ去ることになる。だが、この映画をきっかけにして新境地を開拓したことは間違いない。


 1987年の第59回アカデミー賞では『ハスラー2』(86)の演技が認められ、念願の主演男優賞に輝いた。アル中の初老弁護士が医療過誤訴訟の裁判を経てリ・ボーンしたように、彼もまたハリウッド・スターとしてリ・ボーンを果たしたのである。


※1

https://cinephiliabeyond.org/verdict-sidney-lumet-david-mamets-masterpiece-blend-courtroom-drama-personal-redemption-story/

※2

https://www.youtube.com/watch?v=RR8FkwUg4tQ



文:竹島ルイ

ヒットガールに蹴られたい、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」主宰。



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(c)Photofest / Getty Images

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