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『ナイブズ・アウト:グラス・オニオン』名探偵ブノワ・ブラン真の誕生、大幅進化のシリーズ第2作

John Wilson/Netflix © 2022

『ナイブズ・アウト:グラス・オニオン』名探偵ブノワ・ブラン真の誕生、大幅進化のシリーズ第2作

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とことんオーソドックスに、とことんオリジナルに



 “ミステリーの女王”アガサ・クリスティーの大ファンを公言するジョンソンは、前作に続き、ふたたび古典的ミステリーへの深い敬意をもって物語を紡ぎ出した。なにしろ舞台はギリシャの孤島だから、これは典型的な「クローズド・サークル」もの(外界との接触が絶たれた状況で事件が発生するミステリーのこと)。しかも前作と同じく大富豪の邸宅が事件現場になっているあたり、これは明らかに意図された設定だろう。


 前作『名探偵と刃の館の秘密』の魅力は、クリスティーをはじめとする古典的ミステリーのオーソドックスな部分を「オーソドックスだからこそ面白い」に昇華し、今の時代に再び提示したところにあった。ミステリーのファンにとっては既視感のあるような設定とトリックに、独自の解釈とツイストを加え、『ナイブズ・アウト』オリジナルのものとして刷新したのである。


 とりわけ大きな特徴は、たとえば「SHERLOCK/シャーロック」(10~17)のように古典的ミステリーと現代的テクノロジーを融合させるようなアプローチではなく、あくまでもストーリーテリングの上だけでミステリーの更新に挑んだこと。現代が舞台とあって、必然的にスマートフォンなどの技術は登場するが、物語や謎解きの本質的な部分にテクノロジーはほとんど関係しないのだ。



『ナイブズ・アウト: グラス・オニオン』John Wilson/Netflix © 2022


 今回の『グラス・オニオン』も、こうしたコンセプトは変わらない。すなわち本作最大の見どころは、いかにジョンソンが“オーソドックス”を革新したかという点である。ネタバレぎりぎりを承知で言えば、この事件も真相やトリックは至ってオーソドックス。しかし、そのオーソドックスをいかにひねり、また掛け合わせるかということにジョンソンは心血を注いでいる。そして、その目論みは――何ひとつ具体的に言えないことが悔しいほどに――きちんと成功した。「こんなにもオーソドックスなのに、こんなにもスリリングで、こんなにも面白い」のである。


 たとえばジョンソンの脚本は、ミステリーへの愛情を目一杯たたえながら、ミステリーを抜きにしても充実した人間ドラマを展開する(そして、それこそが優れたミステリーの必須条件だろう)。緊張と緩和を巧みにコントロールした演出、屋内・屋外を問わず美しいロケーションを活かした撮影、リズミカルで小気味よい編集も見事だ。俳優陣にも手練の演技巧者たちがずらりと揃い、友情と策略、陰謀が錯綜する物語に説得力を与えた。


 特筆すべきは、俳優・歌手として第一線を突き進むジャネール・モネイの巧さ、「ワンダヴィジョン」(21)で日本でも一躍有名となったキャスリン・ハーンのコミカルな魅力、『あの頃ペニー・レインと』(00)でアカデミー賞候補となったケイト・ハドソンの曲者ぶりだ。また、名優エドワード・ノートンが演じる“IT成金”の軽薄さと変幻自在ぶりには目を見張るし、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズでおなじみデイヴ・バウティスタも、持ち前のキャラクターとパブリックイメージが役どころにはまっている。


 そして最も注目したいのが、主人公のブノワ・ブランだ。ミステリーの歴史においてはまだまだ新人であるこの名探偵が、ついにキャラクターとしての軌道に乗ったのである。





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