監督自身と生まれ故郷が融合したパティの魅力
今作が長編初監督で脚本も書いたジェレミー・ジャスパーは、学生時代ニュージャージーでミュージシャンとして活動していた。そんな新人監督が完成度の高い作品を作り上げることができたのは、前述した構造に自伝的なストーリーを巧みに封入した結果だろう。ジャスパー監督は大学卒業後、両親と同居して病気を患った祖父母の世話をしながら、寂れた飲食施設でのライブで食いつないでいたという。本作はそんな監督の実体験を色濃く反映しているのだ。
「パティは私の妹のようなものです。私が23歳で体験したことを劇中で彼女も体験しています。私が生涯を捧げるヒップホップと、私を育ててくれたニュージャージーの大きく強い女性への憧れ、そして私の実体験を組み合わせて、誰も見たことのないような伝説的なニュージャージー・ガール=パティが生まれました。私は自分の人生で出会った女性たちとニュージャージーの両方に捧げる作品を作りたかったのです。」
『パティ・ケイク$』 © 2017 Twentieth Century Fox
劇中でパティが繰り出すラップの数々は、監督が23歳の頃に書いたものを手直しして使っているという。パティは監督自身であり、彼を育てた街と女性たちをミックスし造形したキャラクターでもある。監督が自らの血肉を封入することで、観客が心の中で拳を突き上げながらライブシーンを鑑賞する、そんな熱い物語とキャラクターを紡ぎだすことに成功したのだ。
『パティ・ケイク$』MV
『ブルース・ブラザース』の監督、ジョン・ランディスはアメリカで生まれたブルース、R&B、ソウルなど偉大な大衆音楽に敬意を表するために同作を作ったという趣旨の発言をしている。『パティ・ケイク$』はそれと同様の敬意に満ち溢れた作品だ。生まれ育った土地、家族、そして音楽に対する深い愛情、そこに音楽映画の必勝方程式が見事なバランスで融合し生まれた稀有な作品と言えるだろう。
※監督のコメントは劇場用パンフレットから引用しました。
文:稲垣哲也
TVディレクター。マンガや映画のクリエイターの妄執を描くドキュメンタリー企画の実現が個人的テーマ。過去に演出した番組には『劇画ゴッドファーザー マンガに革命を起こした男』(WOWOW)『たけし誕生 オイラの師匠と浅草』(NHK)など。現在、ある著名マンガ家のドキュメンタリーを企画中。
『パティ・ケイク$』
提供:フォックス・サーチライト・ピクチャーズ
配給・宣伝:カルチャヴィル×GEM Partners
公式HP: http://www.patticakes.jp/
© 2017 Twentieth Century Fox
4月27日(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー
※2018年5月記事掲載時の情報です。