(c) 2020 SBS PRODUCTIONS - PATHÉ FILMS - FRANCE 2 CINÉMA - FRANCE 3 CINÉMA
『ベネデッタ』最強の身体を手に入れるカリスマ修道女
誰のものでもないベネデッタ
最大の敵はあなたの体。ベネデッタは痛みを通して信仰を知っていく。マリア像に祈りを捧げる少女時代のベネデッタは、急に倒れてきたマリア像に押し潰される。そのとき彼女はマリアの乳房を衝動的に舐める。修道女の衣服から乳房がはみ出た海外版のセンセーショナルなポスターに示されているように、『ベネデッタ』において女性の身体、乳房は重要なモチーフだ。乳房に傷を負っている婦人は、自分の乳房について「私の秘密の恋人」とまで告白している。そしてベネデッタが半透明のカーテン越しにバルトメアの乳房に触れるハッとするほど美しいシーン。しかし本能で生きるオオカミのようなバルトメアは、悪魔の化身ではない。本当に恐ろしいのはベネデッタの方だ。
ベネデッタはキリストと交信できるという能力により権力の階段を一気に駆け上がる。ベネデッタの能力に疑念をはさむ者は問答無用に一喝されてしまう。『エクソシスト』(73)の悪魔に憑かれたようなベネデッタの言葉は超越的ではあるが、実直でもある。ベネデッタが真に脅威的なのは、彼女自身の信仰の深さに疑いがないことに加え、人の心を操るような能力にも長けているところだ。ベネデッタは信仰によって何かを制限するのではなく、むしろ前人未踏の彼岸の世界を切り拓いていく。
『ベネデッタ』(c) 2020 SBS PRODUCTIONS - PATHÉ FILMS - FRANCE 2 CINÉMA - FRANCE 3 CINÉMA
権力を手にした新たな時代のカリスマヒロイン、ベネデッタ。傷ついた女性の身体さえも権力の象徴となるベネデッタはもはや最強であり、家父長制の社会が恐れるのに充分な条件が揃っている。何者もベネデッタという一人の女性の領域に追いつけない。
ベネデッタは彼岸の身体を手に入れる。感傷から遠く離れた感動を本作に覚えるのは、ベネデッタが手にした身体に新たな世界の希望を見るからだ。様々な光の混じり合いを経た生身の肌。その肌は幻想ではない。誰のものでもないベネデッタ。ベネデッタの身体は、少年でも少女でもない未分化の領域でパーフェクトな光に包まれている。
*1 W Magazine [Virginie Efira’s Immodest Act]
*2 British inematographer [Jeanne Lapoirie AFC / Benedetta]
映画批評。「レオス・カラックス 映画を彷徨うひと」、ユリイカ「ウェス・アンダーソン特集」、リアルサウンド、装苑、otocoto、松本俊夫特集パンフレット等に論評を寄稿。
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『ベネデッタ』
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配給:クロックワークス
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