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『めまい』(58)の狂気性を過激にした衝撃作
『ロボコップ』(87)、『トータル・リコール』(90)というヒット作を連発し、当時勢いに乗っていた監督、ポール・バーホーベンが次作に選んだのが『氷の微笑』(92)だった。
本作は「エロティック・サスペンス」なるサブジャンルが流行した発端とも言われるが、それは「主演女優の性器が見える」という話題のインパクトがもたらした結果であった。そんなゴシップが先行したせいか『氷の微笑』は正当な評価がなされている印象が薄いが、公開から30年を経た今見返すと、バーホーベン監督の意気込みが伝わってくる力作であることがわかる。
バーホーベンはヒッチコックの『めまい』(58)を本作の下敷きにしたと語っている(『氷の微笑』は『めまい』と同じくサンフランシスコを舞台にし、主演のシャロン・ストーンはキム・ノヴァクと同様の金髪である)。
『氷の微笑』予告
『めまい』はジェームズ・スチュアート演じる元刑事が、事故死した女性(キム・ノヴァク)の記憶にとりつかれ、精神のバランスを崩していくサイコサスペンスだ。「運命の女性」=ファム・ファタールに翻弄され狂気に滑り堕ちる男の物語を、より現代的で過激にアップデートするのがバーホーベンの狙いだった。
『氷の微笑』は元ロック・スターが性交中にアイスピックで殺害される事件で幕をあける。その容疑者として警察にマークされたのが小説家のキャサリン(シャロン・ストーン)。悪魔的な頭脳を持つ彼女は警察の追及を嘲笑い、刑事のニック・カラン(マイケル・ダグラス)を誘惑しながら恐ろしい結末へと導いていく。
「私個人はキャサリンを悪魔と解釈した。ある意味で超能力を備え、誰よりも鋭く人の内面を読める」とバーホーベンは語っている。よって本作のファム・ファタール=キャサリンは、今まで誰も見たことがない完璧な悪女でなければならない。重要なのは、それをいかに映像として表現するかだった。