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『氷の微笑』ポール・バーホーベンがヤン・デ・ボンの映像美で構築した完璧な悪女像

(c)Photofest / Getty Images

『氷の微笑』ポール・バーホーベンがヤン・デ・ボンの映像美で構築した完璧な悪女像

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猛抗議にさらされた本作の魔術的魅力



 映像の面からだけ見ても映画的魅力に満ちている本作だが、同性愛者の権利を守る団体からの猛攻撃にさらされた問題作でもあった。


 キャサリンはバイセクシャルで、ロキシーという女性の恋人がいる設定。同性愛者としての側面を持つキャサリンが連続殺人鬼で、ロキシーもかなり凶暴なキャラクターとして造形されたことが問題視された。「性的マイノリティに異常者のレッテルを貼り付けている」として猛抗議を受け、撮影妨害まで受けてしまったのだ。


 確かに本作が2022年の今企画されたとしたら、製作が実現するかどうか疑わしい。バーホーベンの表現(特にセクシャルなシーン)は直截的で時に暴力的、さらに男性の暗い欲望に満ちているからだ。そのためストーンが演じる実に魅力的なキャサリンの造形は、男性が思い描く「理想的な悪女」のステレオタイプに堕しているのではないか、という「疑念」が観客の中にくすぶり続ける。



『氷の微笑』(c)Photofest / Getty Images


 しかし皮肉なのは、この「疑念」が本作のストーリーの暗喩ともなってしまっていることだ。キャサリンが殺人犯ではないのか?と疑いながらも彼女に惹かれ、その魅力にとりつかれるニック刑事。それはポリティカル・コレクトネスの側面からは本作への評価を保留しながらも、作品としての魅力には抗えず、折に触れて見返してしまう映画ファンの姿のようにも見える。


 そうした構造を誘発してしまう魔術性も、また本作の魅力の一つと言っても過言ではないだろう。本作そのものが映画ファンにとってのファム・ファタールなのだ。


※文中のコメントはDVD「氷の微笑 スペシャル・エディション」収録のメイキング及び、オーディオコメンタリーより引用しました。



取材・文:稲垣哲也

TVディレクター。マンガや映画のクリエイターの妄執を描くドキュメンタリー企画の実現が個人的テーマ。過去に演出した番組には『劇画ゴッドファーザー マンガに革命を起こした男』(WOWOW)『たけし誕生 オイラの師匠と浅草』(NHK)『師弟物語~人生を変えた出会い~【田中将大×野村克也】』(NHK BSプレミアム)



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