映画史上もっとも有名な取り調べシーン
このシーンは先述したゴシップで一躍有名になり、『氷の微笑』を象徴するものとなった。映画史上もっとも有名な取り調べシーンと言っても良いだろう。だがこのシーンはヤン・デ・ボンの光の演出が最大限発揮されたからこそ、観客の脳裏に焼きつくものとなったことも記憶されるべきだ。
まず印象に残るのは、取調室としては不自然に広い空間、そこに警官(男)たち5人と、女性であるキャサリンが向かい合って対峙する独特の人物配置だ。実はキャサリンが舞台に立つような効果を狙ったものだとヤン・デ・ボンは語る。「彼女が舞台にいるように見える一方、取調官たちは暗闇に座っている。どんな警察署の取調室も素っ気ない壁と蛍光灯だけのはず。私はカラフルな蛍光灯をふんだんに使ってモンドリアンの絵のような雰囲気を出した。天井からの光には誘惑的な雰囲気もある」
『氷の微笑』(c)Photofest / Getty Images
男たちの顔には格子模様の影が落ち、その目はよどんでいる。対して純白のワンピースを着たキャサリンは自信に満ちあふれ、スポットライトによってまさに舞台的な効果を上げている。その中をカメラが縦横無尽に動き回り、緊迫したやりとりをアクション映画さながらにカット割りし構成した。
その中でかの有名な「ストーンの性器が見える」という足の組み換えショットが登場する。それを見つめる男たちは格子模様の影に覆われ、まるで性欲の檻に閉じ込められた哀れな囚人だ。ファム・ファタールに男たちが屈服したシーンとして、これ以上完璧なものはないだろう。