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『氷の微笑』ポール・バーホーベンがヤン・デ・ボンの映像美で構築した完璧な悪女像

(c)Photofest / Getty Images

『氷の微笑』ポール・バーホーベンがヤン・デ・ボンの映像美で構築した完璧な悪女像

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ヤン・デ・ボンの「不自然な光」の演出



 キャサリンを完璧な悪女として完成させるため、バーホーベンが組んだカメラマンは、同じオランダ出身のヤン・デ・ボンだった。彼とバーホーベンは『ルトガー・ハウアー/危険な愛』(73)『グレート・ウォリアーズ/欲望の剣』(85)で組んでいた旧知の仲。そんなヤン・デ・ボンは、ハリウッドで『ダイ・ハード』(88)『ブラック・レイン』(89)などに参加し、流麗な移動撮影とダイナミックな映像で評価を得ていた。


 『氷の微笑』でヤン・デ・ボンがこだわったのは「不自然な光」だった。本作には、あからさまな映像美を誇示するカットはないが、全編で周到な照明の設計がなされている。特にバーホーベンが重視した前半のキャサリンのシーンには様々な工夫がこらされており興味深い。



『氷の微笑』(c)Photofest / Getty Images


 まずキャサリンが初めて登場するシーン。海に面したウッドデッキの上でニックとキャサリンが出会う重要な場面だ。バーホーベンはこう語っている。「有名な登場シーンだ。完成までが大変だった。主役が登場する場面に説得力がないと映画が成立しない。結局何度か撮りなおした」


 バーホーベンは撮影が進むに従い役になりきっていくストーンを見て、初期に撮ったテイクを没にした。そして再撮影を行い、キャサリンの完璧な登場シーンを目指したという。そこにヤン・デ・ボンの照明の妙が加わった。よく見るとこのシーンのキャサリンの後方には、不自然な白い光が反射する様子が伺える。これはヤン・デ・ボンが置いた鏡が太陽を反射している光だ。逆光でマイケル・ダグラスの光量が足らず、苦肉の策として鏡の反射を利用したが、切り返しでストーンを撮影する際、敢えてその鏡の反射を入れ込んで撮影したのだ。


 バーホーベンはこう評価する。「光の反射のお陰で彼女がより特別に謎めいて見える」不自然な光を演出として取り入れることで、キャサリンのミステリアスな人物像を映像的に表現したのだ。


 さらにこの後の車内のシーンでは、キャサリンが重要な台詞を言う瞬間、彼女の横顔に日の光があたり、車の移動によって逆光へと変化していく。それを利用し劇的な効果を狙った。「現実ではあんなタイミングで日が差すことはありえない。彼女から後光が差してるイメージだ」合成ではなく自然光をそのまま利用した撮影だったためタイミングを調整し何度も撮りなおした。


 そしてヤン・デ・ボンの手腕が最も生かされたのが、有名な取調室のシーンだろう。




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